「いつもここから」という名前の漫才コンビがいる。「悲しいとき」というネタで有名な漫才コンビだ。イラストが描かれたスケッチブックを見せながら、「悲しいとき」を並べ立てていく。「悲しいとき!」と片方が叫び、「悲しいとき!」ともうひとりが確認するように反復し、「もう服装のことなんてどうでもよくなったおじさんが変な服を着ているのを見たとき!」と片方がネタを言い、(ここで変な絵がプリントされたシャツを着たおじさんんの絵が示される。)「もう服装のことなんてどうでもよくなったおじさんが変な服を着ているのを見たとき!」と絵を出した方がまた反復するといった具合だ。これを何度も続けていく(はじめの「悲しいとき」は決まって「誰かが死んだとき」で、最後の「悲しいとき」は決まって「夕日が沈んだとき」だ)。
 ぼくは、漫才コンビ「いつもここから」はこの「悲しいとき」のネタしか見たことがなかった。それでも、片方が握りこぶしを握ってどこか高くを見つめながら、まったく笑みをこぼさずに叫んでいる姿に、硬派でストイックなものを感じていて好感を持っていたし、ネタもおもしろいと思っていた。この前、「爆笑オンエアバトル」というNHKの番組に「いつもここから」が出ていて、それ以外のネタをやっているのを見た。それを見て、ぼくは震えた。それは、「暴走族」というネタだった。特攻服を着て、バイクのハンドル部分だけを持ったふたりが、「どけどけどけどけどけどけ!ひき殺されてーのか、どけどけ!」と言いながら出てきて、舞台に向かって縦に並ぶ。そして、「邪魔だ邪魔だ!どけどけ!」「バカヤローひき殺されてーのか!このヤローめ!」と叫び、前にいる方が「バカヤローめ!応募者全員プレゼントっていうから喜んでたんだバカヤローめ!」と叫ぶと、後ろの方が横から顔をのぞかせるようにして「バカヤローめ!切手500円いるんじゃねーか!バカヤローめ!」とつっこみ(そしてまた前の人に隠れる)、前の人が「バカヤローめ!応募者全員プレゼントっていうから喜んでたんだバカヤローめ!」と反復し、「バカヤローめ!それじゃ通販じゃねーか!バカヤローめ!」とまた顔をのぞかせて後ろの人が叫ぶ。そして「どけどけどけどけ!邪魔だ邪魔だ!バカヤローめ!」と言いながら、今度は前と後ろの位置を変え、ネタを続けていくといった具合である。少しなまりの入ったしゃべり方で早口で叫ぶこと、アクションとしゃべる内容のずれのおかしさも加わって、なんともいえない独特の漫才を生み出していた。そんな漫才はそれまで見たことがなかった。しかも内容もおもしろかった。こんな漫才があるのかと興奮した。それ以来ぼくは、「いつもここから」に注目している。
 文章で説明してもおもしろくないかもしれないけれど、実際に見たら絶対におもしろいです。ビデオも出ているので興味のある方は見てみてください。