人間は、人生のいずれの瞬間においても、かつてそうであったものの全体であり、そうなるであろうものの全体である。  オスカー・ワイルド
彼らは塵と化すであろうが、生前愛したものも塵だった。  ケベード
世界の歴史は全ての人間が記し、読み、理解しようとする果てしなき一冊の聖書であり、そこには、彼ら自身もまた記されている  カーライル
謎の解決はつねに謎そのものより劣ると考えた。  ボルヘス「アベンハカーン・エル・ボハリー おのれの迷宮に死す」
そもそもの出発点には、素朴な話だが、実際に自分の感じていた、幼なく切実な問いかけがあったことを思い出す。すでに小説はバルザックドストエフスキーといった偉大な作家によって豊かに書かれているのに、なぜ自分が書くのか?同じように生真面目に思い悩んでいる若者がいま私に問いかけるとしよう。私は、こう反問して、かれを励まそうとするのではないかと思う。すでに数えきれないほど偉大な人間が生きたのに、なおきみは生きようとするのではないか?  大江健三郎「私という小説家の作り方」