作業中、所長の娘に話しかけられた。近頃、所長の様子がおかしいという。どういうことかと詳しく聞いてみると、娘が言うには、所長は家へ帰るとすぐに部屋へ閉じこもって出てこないのだという。なにをしているのか、所長のいないときに部屋へ入って調べてみると、机の上に奇妙な形の石ころがいくつも置いてあって、中には血のしみのようなものが付着しているのもあったという。なんのためにそのような石を持っているのか。なんに使うのか(使った後なのか)。また、あるときなど一日中、逆立ちをしていることもあって、奥さんがたずねても、なにも答えなかったという。とにかく、奇行に走っているのは間違いないらしいが、その原因は分からない。娘は困った顔で、半分泣きそうでもあった。
しかし私にはどうすることもできず(できるわけがない)、作業の続きにとりかかった。とりあえず、娘にとっては悩みを聞いてもらっただけ良かったのではないか。これで少しはましになっただろう。私は私自身の悩みで精一杯なので、人の悩みに関わっているわけにはいかない。靴だってぼろぼろなのだ。