あなたはなにか考えている。きっとフォークのことに違いない。私には分かる。あなたはフォークに並々ならぬ感心を寄せていたから。あなたは私よりもフォークや皿について感心を寄せている。私はそのことを寂しく思う。しかしあなたの心を私の思うようにすることはできない。私はそのことをよく知っている。あなたは、フォークや皿、スプーンなど、食器については心を開いている。あなたはフォークと会話さえしている。あなたは皿と仲良しで、会う度に親しげに挨拶をしている。私はあなたに嫉妬しているのかもしれない。いや、きっと嫉妬している。私はあなたと親しくなりたいと考えているのに、あなたは皿やフォークしか見ないから。あなたが食事をするのは、きっとフォークや皿を使うためだろう。それ以外に理由は考えられない。あなたがおいしそうに食事をしたのは、手にフォークを持つことができた喜びのせいなのだろう。あなたはフォークのことを愛しているのかもしれない。私はこの事実を無視することはできない。私はだから、フォークや皿、スプーンなどの食器全般を憎んでいる。私が食器を叩いているのはそういう理由からだ。私はだから一生でも食器を叩き続けるだろう。私は食器と話すことはできない。あなたは珍しい人だから、食器と楽しく会話することができるのかもしれない。けれども私は自分がきわめて普通な人間であることをよく知っている。私はなにも特徴のない平凡な人間。私はなにも人より抜きん出たところはない。あなたは美しいし、才能あふれる人だけれど。私はあなたがうらやましい。私はあなたともっと近付きたい。しかしあなたは私にまったく興味を示してくれなかった。あなたはせいぜいフォークと会話をするくらいだ。あなたは人間全体に感心がないのかもしれない。私には分からない。私はあなたのことをなにも知らない。私は知りたいと思う。けれど心を開いてくれないのだ。私は悲しい。私はあなたのことを考えている。あなたは美しい。あなたのことを考えると私はどうにかなってしまいそうになる。心が乱れる。あなたは壊れてしまった。私が壊してしまった。あなたは壊れることを望んでいたのだろうか。私には分からない。答えが見つかるとも思えない。あなたは壊れた。私はそれを見ていた。ただ見ていた。私は歩く。歩きながら考える。歩きながら交信し、フォークで皿を叩きかちんと音をさせる。その度にあなたが壊れたことを思う。あなたは夢を見ているのか。私はただ歩き、フォークで皿を叩く。

私はあなたと食事をした。あなたはおいしそうに食べた。私はそれを見ていた。静かに時間が流れていた。私はただ紅茶だけを頼んでいた。しかし口はつけていなかった。私は紅茶を見た。紅茶は赤く透き通っていた。高級な葉を使っているのだろう。香りが良かった。私はその香りにしばらく神経を集中させていた。その香りをかいでいると穏やかな気持ちになることができた。私はあなたを見た。あなたはなにも見ていなかった。私は視線を少し落とした。視線を上げた。おそらく紅茶はだいぶ冷めてしまっただろう。私は紅茶のことを考えた。それから少しあなたのことを考えた。あなたは食事が終わりかけていた。あなたはフォークを見た。あなたは皿を見た。私はテーブルの下で足を動かした。私は椅子を少し前に動かした。あなたはそれに気付かなかったようだ。あなたはなにも考えていなかった。あなたは退屈そうな顔をしていた。あなたは退屈だと考えていた。私は違った。私はあなたと同じ席についているだけで退屈ではなかった。私はあなたを見ていた。私はウェイターを呼んだ。私は紅茶を新しいものに変えさせた。冷めていたからだ。ウェイターが新しい紅茶を持ってきて音もさせずにテーブルに置いた。私はそれを見た。私は紅茶を見た。いい香りがしていた。私はしかし口をつけることはなかった。ウェイターはあなたの皿を下げた。あなたはなにも言わなかった。あなたはなにも見ていなかった。あなたは息さえ止めているように見えた。あなたはまったく動いていなかった。私は紅茶を見た。白い湯気が上がっていた。私はそれを見ていた。それからあなたを見た。あなたは指をすっと前に出した。あなたは人差し指を出した。そして人差し指をゆっくり動かして紅茶の中に入れた。そのまましばらくしていた。私はそれをなにも言わずに見ていた。あなたは指を紅茶から出した。あなたはちらと指を見た。しかしなにも言わなかった。私はあなたを見た。あなたはなにも言わなかった。それから、あなたはまた人差し指をすっと前に出した。そして同じようにまた紅茶の中指を入れてそのまましばらくしていた。あなたは指を動かさなかった。私はそれを見ていた。あなたは指を紅茶から出した。あなたは次の瞬間また指を紅茶に入れた。出した。入れた。出した。入れた。出した。入れた。出した。入れた。出した。あなたは指を少し見た。あなたは指をもとの場所に戻した。私は紅茶を見た。湯気はもう立っていなかった。私は紅茶を見た。私はあなたを見た。私は紅茶を見た。そしてウェイターを呼んだ。紅茶を新しいものに変えるように言った。ウェイターは紅茶を下げた。ウェイターは新しい紅茶を持ってきた。私は新しい紅茶を見た。紅茶から白い湯気が出ていた。私は人差し指を前に出した。私は人差し指を紅茶に入れた。しばらくそのままにしていた。私は紅茶と人差し指を見ていた。それから指を出した。私は人差し指を見た。赤くなっていた。私はまた紅茶に人差し指を入れた。出した。入れた。出した。入れた。出した。入れた。出した。私は紅茶を見た。私は視線を上げた。下げた。上げた。下げた。上げた。下げた。あなたはそれを見ていなかった。私は紅茶の入ったカップを持って少しだけ上に上げた。下げた。上げた。下げた。上げた。下げた。上げた。下げた。あなたはそれを見ていなかった。あなたは立ち上がった。あなたはトイレへ立った。私はそれを見ていた。私はあなたを追いかけた。あなたはトイレへ入っていった。私は見ていた。私はトイレのドアを開けてあなたを見ようとした。あなたはいなかった。あなたはおしっこをしているようだ。あなたは個室に入っていた。私はその前まで行った。ほかに人はいなかった。あなたはおしっこをしていた。音が聞こえてきた。私はドアのところに耳をつけた。音が聞こえてきた。終わった。あなたはトイレットペーパーを使った。あなたは出てきた。あなたは出てきて鏡のところへ行った。あなたはゆっくり手を洗った。あなたは私に気付かなかった。私はいた。しかしあなたは気付かなかった。私は蛇口をわまして水を出した。勢いよく水が出てきた。私は蛇口を止めた。私は蛇口をまわした。止めた。まわした。止めた。まわした。止めた。まわした。止めた。まわした。あなたはそれを見ていなかった。あなたは自分の顔を見ていた。見ていなかった。あなたはなにも見ていなかった。私はあなたを見ていた。私は水を見ていた。あなたは手を洗った。あなたは私にそっと触れた。あなたは私の耳にそっと触れた。私の耳に水がついた。あなたはそっと私の鼻に触れた。私の鼻に水がついた。私はそれを見ていた。私の耳と鼻に水がつくのを見ていた。あなたは突然その場でしゃがんだ。私はそれを見ていた。私は蛇口をまわして水を出し手に水をつけた。私はしゃがみこんだあなたの髪の毛に触れた。私はあなたの髪の毛を一本つまんでぐっと伸ばした。私はその一本の髪の毛を水のついた手で触れた。奥から手前へゆっくりと触れていった。水のついた手であなたの髪の毛を触っていった。私はその濡れた髪の毛一本を見ていた。私はその髪の毛一本を少しだけ右に動かした。左に動かした。右に動かした。左に動かした。右に動かした。左に動かした。私は髪の毛をもとに戻した。あなたはじっとしていた。あなたはなにも考えていなかった。ただじっとしゃがんでいた。あなたは立ち上がった。あなたはトイレを出た。私はそれを追いかけた。あなたは席へ戻った。私も席へ戻った。私は紅茶を頼んで持ってきた紅茶をいきなりわざと倒した。紅茶はこぼれて床にぽとぽと落ちていった。ウェイターがあわてて飛んできてすぐにふこうとしたが私はそれを止めた。私は紅茶がテーブルから落ちて床にぽとぽと落下するのを見ていた。紅茶は床に落ちた。紅茶は床に落ちた。紅茶は床に落ちた。紅茶は床に落ちた。私はそれを見ていた。私は席を立ってしゃがみこんでそれをじっと見ていた。紅茶はほとんど床に落ちた。あなたは私がそうしている間なにもしなかった。私は席へ戻った。ウェイターはただ待っていた。あなたは席を立ち上がった。あなたは紅茶が落ちたところへ行って指でそれに触れた。あなたの指に紅茶がついた。あなたは指の紅茶を見た。あなたはそれを私の足になすりつけた。私はそれを見ていた。あなたは私の足に紅茶をなすりつけた。私はそれを見ていた。あなたは席へ戻った。あなたはそれからほとんど動かなかった。私も動かなかった。あなたはなにも見ていなかった。私は席を立ち上がった。私はトイレへ向かった。私はトイレのドアを開けて中に入った。私は中へ入るとすぐにまた外へ出た。それからまた入った。出た。入った。出た。入った。出た。入った。出た。私は席へ戻った。あなたはずって動いていなかった。あなたはなにも見ていなかった。あなたはただじっとしていた。あなたは立ち上がった。あなたは私の後ろへ歩いて来た。あなたは私の背中に立った。あなたは私の背中に手を置いた。あなたは私の頭に手を置いた。背中に手を置いた。頭に手を置いた。背中に手を置いた。頭に手を置いた。背中に手を置いた。頭に手を置いた。あなたは席に戻った。私はあなたがすることをただじっと黙って見ていた。私は席を立った。私は店を出た。あなたは席を立った。あなたは店を出た。そしてあなたと私は歩きだした。私はあなたのとなりを歩いた。あなたの存在を感じていた。あなたは私のことを考えていなかった。あなたはなにも考えていない。あなたはなにも見ていない。あなたはただ歩いていた。あなたは歩いた。私は歩いた。あなたは急に立ち止まった。あなたは反対の方に歩きだした。私もそれに付いていった。あなたはさっきの店へまた入った。私も入った。あなたと私はまたさっきまで座っていた席についた。あなたはさっきと同じものを注文した。私も紅茶を注文した。あなたは食べた。私は紅茶に口をつけなかった。ただあなたを見ていた。あなたはおいしそうにそれを食べた。あなたは全部きれいに食べた。あなたは店を出た。私も店を出た。あなたと私は歩いた。私はあなたの存在を感じていた。あなたは歩いた。あなたはなにも見ていなかった。あなたはいきなり立ち止まった。あなたは反対の方を向いて歩きだした。私はあなたについていった。私とあなたはまたさっきの店へ入った。あなたはまた同じものを注文した。私も紅茶を注文した。あなたはまたきれいにそれを全部食べた。私はそれを見ていた。私は紅茶に口をつけなかった。私とあなたは店を出た。もう戻らなかった。私とあなたは部屋へ向かった。向かう途中あなたと私は一言も口をきかなかった。あなたはなにも見ていなかった。私はあなたを見ていた。