東京へ来てからの、いくつかある大きな思い出の場所のうちのひとつである、海のそばにあって、古い、魅力的な建物が、今月いっぱいで壊されるというので、最後にしっかり見ておこうと思って、横浜へおとずれた。この建物には、友達のHさんやA君などが作品を制作するアトリエを持っていて、何ヶ月かに一度訪れては、絵を見たり、話をしたり、お酒を飲んだりして、どこか日常から離れた、不思議な時間をすごしていた。この建物にはたくさんの、美術や建築やデザインや、ものをつくる人たちがアトリエをかまえていたり、ギャラリーや図書館や研究所のようなものが入っていたりしていて、そういう人たちの交流の場所にもなっていたので、自分はあまり関係のない人間ながらも、ときどき交ぜてもらって、なにやらごそごそ動いたり、恥ずかしそうに止まったりしていた。そういうわけで、こういう魅力的な場所がなくなってしまうのは、とても悲しいけれども、だれかがそういうふうに決めたので、たぶん仕方がないことなのだろうし、時間はだれの体(や建物)にも平等に、容赦なく流れ続けるのだろう。そういうわけで、Hさん(と共同でアトリエを借りているIさん)の最後の展示を見て、なにやら口からてきとうに言葉を出して、少しお酒を飲んで、この白い不思議な建物に別れをつげた。