ルフレッド・ウォリス展について書かれたブログなどを読んでも、出てくる感想はみな「70歳になってはじめて筆をとった」や「もと船乗りで、船の絵ばかり描いた」というすでに与えられた情報か、「一見子供が描いたみたいで下手に見える」とか「ボール紙などに描かれていて素朴」というようなほんとに浅いところでの画風のことで、そういうのを読んでもウォリスの絵の良さの本質的なところにはぜんぜん触れていなくて、絵を見たことを言葉にするのは難しいのかなと思う。
自分がウォリスをいいと思った第一は、色の選び方と、それをどういうふうに、どれくらい配置するかのバランス、あるいは形の取り方、地の部分(茶色やオレンジ)の残し方、という絵のもっとも基本的で、かつ重要な色と形のことで、まずこれが圧倒的に上手だと思った。帆を張った船という題材も形として美しく、並べても余計に良いし、灰色じみた海と船の黒というコントラストに目がよろこび、陸の黒色や緑、また家の存在が絵の構成を助けている。ウォリスの絵がいちばん輝くときは、陸地の近くに船があるところを描いたもので、たんに海の上の船を描いたものでは絵が頼りないと思ったのだろうか、だいたい灯台を描いていることが多く、描かれていないものは寂しい気もするし、ウォリスらしくないとさえ思ってしまう。
もしかしたらウォリスは、船が灯台を求める姿を描こうとしたのだろうか。だとしたら、ウォリスが絵を描き出したのは、70歳という高い年齢が重要なのではなく、奥さんを失って3年後というところが重要で、もしかしたらあの灯台は奥さんのことで、船はウォリスのことで、奥さんを求める航海がウォリスの絵なのではないか。それはもしかしたら安易な発想だし、絵の本質から離れることかもしれないけれど、70にして突然絵を描きだした理由、またえんえんとそればかりを描いた理由、というところの説明にはなるかもしれない(もちろん本人が言うように、たんに昔の思い出を描いただけかもしれないが…)。どちらにしても、色と形と構成が優れていることは間違いない本物の画家で、だれのためではなく自分の喜びのためにつくっていた、そうしてできあがったものが素晴らしい、それでいいのかなとも思う。
そういえば今日、最新号の「芸術新潮」で小さくウォリスが特集されていて、購入した。美術館のカタログよりも絵が大きく載っているし、あと一番大きい特集の、新しくパリにできたケ・ブランリー美術館というのが気になった。


リンク
だれも知らなかったアルフレッド・ウォリスーある絵描きの物語ー
http://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/wallis/index.html

ウォリスの大甥の孫がつくったらしいウェブサイト
http://www.alfredwallis.org.uk/
画像の質に問題があったり、なぜかモノクロも多く残念だけれど、180点近くも作品を載せています。でもやっぱりこの色使いは惹かれる。あと木の描き方もいい。

ケ・ブランリー美術館
http://www2.quaibranly.fr/
アフリカ、アジア、オセアニア南北アメリカのものを集めた美術館らしいです。仮面、彫像、モニュメント、楽器、武器、装身具、テキスタイルなど。非常におもしろそうで、行ってみたい。