肉屋の兄妹ハンスとアマーリアは、大きな石造りの倉庫の壁のところで、球遊びをしていた。まるで要塞のような倉庫で、しっかり格子の嵌まった窓が二列あって、河岸に沿ってずっと長く伸びていた。ハンスは転がす前に球をよく調べ、その転がる筋と先方の穴も見きわめて、慎重に狙いを定めていたが、アマーリアのほうは穴のところに坐り込み、待ち切れずに拳で地面を叩いていた。が、突然、二人は球をほったらかしにして、のろのろと立ち上がると、近くの窓を見つめた。窓は窓枠で細かく分けられていたが、誰かがその小さな曇った窓ガラスの一枚をきれいに拭こうとしているような音が聞こえたのだ。だが、それはうまく行かず、ガラスは二つに割れ落ちて、痩せた、どうも理由なしに笑っているとしか思えない顔が、小さな矩形の中にぼんやりと浮かんだ。どうも男らしい。彼が言った。
 「おいでよ、君たち。君たちは倉庫を見てみたことがあるかい?」
 二人は首を振った。アマーリアは興奮した様子で男を見上げた。ハンスは後ろを振り向いて、近くに誰かいないものかと見回してみたが、ただ一人、何事にも感心なさげに背を丸め、荷物いっぱいの手押し車を波止場の柵沿いに押して行く男の姿があるばかりだった。
 「中を見たら、ほんとうにびっくりするから」
 男は、子どもたちから壁と格子と窓で隔てられているという不利を熱心さで克服しなければというかのように、声に熱意を籠めた。
 「さあ、入っておいでよ。ちょうど今が最高に都合いいんだ」
 「どうやって入ればいいの」アマーリアが言った。
 「俺が入口を教えてあげるからさ」男は言った。「俺はこれから右の方へ、順番に窓を叩いて行くから、それについて来な」
 アマーリアがうなずいて、隣の窓の前へ駆けて行くと、ほんとうにそこで叩く音がした。そして音は右へ右へと順々に、同じように動いていき、アマーリアは考えもなく見知らぬ男の言葉に耳を貸して、まるで輪回しの木の輪っかを追っかけるかのような勢いで駆けだして行ったのだが、しかしハンスはただのろのろと、その後に付いていくばかりだった。
 カフカ「肉屋の兄妹」より)