絵の話、ふたつ書きます。

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前々回の個展(新宿眼科画廊)をしたときに、絵にくわしそうな人から、自分の絵は長谷川繁に似ていると言われた。そのとき、長谷川繁という人がどういう絵を描いているか知らなかったし、名前さえそのときはじめて聞いたくらいだった。それで、家へ帰って、インターネットで調べてみると、たしかに似ていると思った。モチーフとして、ツボとか、具体的ではないシルエットみたいな人間とか、棒のようなものがよく使われていたし、画面の使い方、フレームにたいする、モチーフの入れ方などもかなり近い感覚があると思った。モノを組み合わせたり、ダブらせて描いたりするところも、似ていた。それでもそのときは、そっかと思ったくらいで、その後すっかり忘れてしまった。
昨日、吉祥寺へ行ったとき、府中市美術館で長谷川繁が公開制作をする(している)ことを告知するチラシを見つけた。いちおう家へ持って帰って、とくになにも考えず机の上に置いておいた(それを見に行こうとか、別に思わずに)。しかし、なんとなく気になりだして、あらためて長谷川繁の絵を調べてみた。すると、やっぱり似ているとあらためて思った。それで、ツイッターにそのことを、何回かにわけて書いた。書いてみると、さらに気になりだした。美術館のサイトを見ると、明日(つまり今日)も公開制作するという。これは見に行こうと思った。
そういうわけで、今日、府中市美術館へ行ってきた。まず公開制作をしている部屋へ行ったが、だれもいなかったので、ガラス越しに何枚か壁にかかっている絵を見て、その後近くにあったファイルを見ていると、奥の方からコーヒーを持った男の人がやってきた。すぐに長谷川繁さんだと分かった。そして、自分に、部屋に入ってもいいよと言った。自分は部屋へ入り、絵を見せてもらった。それから、絵の話などをした。同時進行で絵を描いているということを知っていたので、それを聞いたりした。長谷川さんは、とても穏やかな感じで、優しく、大らかに見えた。終始笑顔で、声も柔らかかった。そうしてしばらく話をしていると、後から、二人組の、知り合いらしい人たちが来たので、自分は、また後から来ますと言って、出た。
企画展でしていた歌川国芳展を見て(これはこれですごくおもしろかった。人が多かったけれど…)、美術館のまわりを散策してから(公園になっている)、また公開制作室へ行った。そうして、自分が長谷川さんの絵に似ていると人に言われたことを話し、あらかじめ用意しておいた、前回の個展の絵を何枚かはさんだファイルを見てもらった。なぜか、びっくりするくらいに、良いと言ってもらった…。絵を描くのはまさにこういうことだとか…長谷川さんの絵より良いとか…。そんなことないです、と恐縮してしまい、そんなに言われても、逆に、ほんとかな?という気がするくらいだったけれど。自分では、ほんとに、そこまで良くはないと分かっているし…。その後、長谷川さんの知り合いらしき人が何人か来たので(小林孝亘さんかな…「小林君」と長谷川さんが言っていたし、絵の雰囲気と似ているので…)、あいさつし、そこを後にした。
自分と長谷川さんの絵は、似ていると思ったし、たしかに似ているところが多いけれど、しかしもちろんそっくりではないし、違うところもあると、分かった。でも、長谷川さん以外にも、自分の絵はいろいろな人に似ていると思うし、まったくただひとりの個性を持っているといえないのは、当たり前だけど、知っている。いろんな影響を受けたり、受けなかったり、しているし、そもそも影響どうこう関係なく、もともと持っているものは、なかなか変えれないということを、最近は考えるようになった。絵に描くモチーフが近いということは、むしろたいしたことではなく、それをどういうふうに見ているか、絵にするときにどういうふうに描くか、手が描いてしまうか、頭が考えてしまうか、そしてそれをどのへんで終わらせるか、というところが大事だという気がしている。大事というのは、それがその人の絵であることの根拠というか。具体的にもいろいろ言えると思うけど、さすがに長くなりすぎているので、この話はこのへんで終わりにしようと思う。
長谷川さんは、絵もそうだけど、人柄が、すごく魅力的で、素敵だった。


2
もうひとつの、今日の絵の話。
自分はツイッターをしていて、もう、もしかして半年近くしていることになるのかもしれないけれど、それはまあいいとして、そのツイッターで知り合った人で、とても好きな、気になる絵を描く人がいる。自分のことをフォローしてもらったときに、その人のアカウントにブログへのリンクが貼ってあったので、そのブログを見たのだけれど、そこにのっている絵がとても良かった(ブログといっても、文章はぜんぜんなく、絵だけをたんたんと載せているのだけれど)。繊細な絵で、弱々しい鉛筆の線に、わりと少なめの色数の色を、ぽつぽつと乗せているような絵。細い女性や、花や、木や、ぬいぐるみや、靴、模様のようなものや、馬やなんかが、たよりなげに描かれている。そこまでたよりなげで、弱々しい絵は、あまり見たことがなく、魅力的に思った。
それで、ツイッターのダイレクトメッセージを使って、少し感想を送ってみたりして、絵の展示の機会がないか、ぜひ生の絵が見たいと、聞いたりした。返ってきた返事に書かれていたその人の文章は、絵と同じように、あまり読んだことのないようなもので、単語をぽつぽつと並べている、しかもときどき英語が混じっている、といった感じの、一読しただけではなんのことか分からない文章だった。正直言って、この人大丈夫かな、と心配してしまいそうな…。外国の人かな、と思ったりもしたけれど、フォローしているのはみんな日本のアカウントだし、名前も日本人の名前なので、もしかして日本人だけれど、帰国子女的な人なのかもしれない、とか思ったりした。分からないけれど…。
何回かメッセージをやり取りしていると、あるとき「こづつみ おしえて ください」という言葉が入っていたので、もしかして生の絵を見たいと自分が書いたのに対して、なにか絵を1枚送ってくれるのかな、と思い、自分の住所を書いて送った。しばらくして、「こづつみ しました」というメッセージが届いた。
そして今日、美術館から家へ帰ってくると、その「こづつみ」が届いていた。少しふくらんだ封筒。開けてみると、半透明の白いパラフィン紙のようなものに包まれた、大量の絵が入っていた(後で数えると、74枚あった)。ブログを見ただけではぜんぜん分からなかったのだけれど、絵も、その包み紙と同じように、半透明のパラフィン紙のような紙に描かれていた。こういう紙に描いた絵もあまり知らないし、ブログを見て、やけに皺がスキャンされているなと思っていた理由がやっと分かった。1枚ずつ、手にとって、ていねいに見ていった。繊細な弱々しい鉛筆の線。それに合わせて塗られた色。あるとき、ふと窓の外の光に絵をかざしてみた。半透明なので、光が透ける。すると鉛筆の線が消え、色だけが浮かび上がった…。
「こづつみ」の中には、手紙(これも半透明の紙に描かれていた。同じような文体で…)と返信用の封筒、切手、小さいピンク色の貝殻が入っていた。絵を、この封筒(あらかじめ住所等が書かれている)の中にいれ、返してほしいということだった。
自分は、この人のことをほとんどなにも知らない。何通かメッセージのやり取りしただけだし、どういう想いで絵を描いているのかも分からない。絵を、このまま返してもいいのだけれど、できれば、もう少し多くの人に見てもらえる機会がつくれれば、と思う。どういう方法がいいのか分からないけれど…(だれか、そういう力がある人に見せたり、すればいいのかな…)。
とりあえず、(ツイッターには一度紹介したけれど)その人のブログ?へのリンクを貼っておきます。けっこう頻繁に更新しているみたいです。

http://kikasumi.blogspot.com/


あと、自分のブログで、絵が届いたこと他を書くことは、いちおう了解を取っています。