学生のころ、寮のようなところに住んでいた。
ひと部屋がもうほんとに小さくて、部屋にはただひとつ、下部が収納になった、ただの木の箱みたいなものが置いてあった。その上に布団を敷き、ベッドにして寝るというわけだ。部屋自体も箱みたいなかたちで、小さい流しと水道があるのみで、トイレも風呂もなかった(共同だった)。当時まめに毎日書いていた日記では、その部屋のことを、「ゴミ箱」と呼んでいた。かたちが箱みたいだったことと、雨のあとなんかに、ときどきいやな匂いがしたからだと思う。そこに、約2年と半年住んだ。
とくにいやだったのは、隣人や、近くの部屋に住んでいる人たちが立てる音だった。夕方ごろ部屋へ帰ると、かならずのように、左隣の住人が電気ギターの練習をしていた。同じフレーズを何度も何度も練習していて、ノイローゼになりそうなくらいだった。どう解決していいか分からず、手紙を書いて訴えたりした。結局その住人は、そのせいかどうか知らないが、自分が二年に上がった時に、引っ越してしまった。
それから音でつらかったのは、右隣の住人が窓をたびたび開け閉めすることだった。とくに夏のことだけれど、右隣の部屋には、窓に取り付けるタイプのエアコンが付いていて(自分の部屋にはなかった)、それが起動するたびにいやな機械の音を立てた。問題は、エアコンが止まるたびに、窓をがらがらと開けることだった。そして、またエアコンが動き出すと、ぴしゃりと窓を閉める。その行為が、その住人が眠るまでに何度も繰り返された。自分は友達もいず、外ですごすこともしなかったので(そこはかなり田舎で、まわりは田んぼに囲まれたようなところだった)、その音を我慢して聞いているしかなかった。箱のようなベッドの上に寝て、本ばかり読んでいたので(ほかにすることがなかった)、そのエアコンの音と、窓の開け閉めの音は、かなり耳の近くで聞かされることになった。ほんとにいやでいやでたまらなかった。引っ越しをしようとしても、うまくいかなかった。結局2年半そこですごし、そのあとは実家から学校へ通うことになった(片道2時間半かかるが、そのときにはもうかなり単位をとっていたので、あまり学校へ行く必要はなかった)。


隣人の音に悩まされないことはない。いまも(あれから何年経っただろう…)程度の差はあれ、悩まされている。自分が部屋選びが適当なせいかもしれないし(じっさい、いままで三回部屋探しをしているけれど、どれもさっさと決めてしまっている)、予算が安いせいかもしれない。それとも、部屋選びの運がないのかもしれない。また、ただ自分が音にたいして神経質なせいで、ほんとはそこまで悩むものでもないのかもしれない。でもとにかく、本人としては、音のせいで愉快でない気持ちになることが多い。日々、部屋で生活をしていて。
いま住んでいるところの隣人も、夜になるとたびたび窓を開け閉めしている。なんのために?…よく分からない。スーパーの袋を窓の外に出してがさがさと振ることも多い。なんのために?なにか捨てているの?…また、はっきりと奇声のような声も出している。なにかあったの?苦しいの?ほんとにそれは、必要なことなの?…よく分からない。それも、ほぼ、というかかならず、毎日だ。
自分は耳栓をすることを覚え、それも性能のいい、自分の耳のかたちに合った耳栓に出会ったので、夜はそれをつけて寝ている。でも、ほんとうはそんなもの、つけたくない。