刑場の入口に立つ松飾り
小太郎と名付けし仔猫娑婆知らず
死ぬるため夜の独居に羽蟻来む
穏やかな厄日の朝に処刑なし
右腕に食器口より隙間風
実存を賭して手を擦る冬の蠅
死はいつも不意打ちなりし十二月
悪霊を持て余したり穴惑(あなまどひ)
人としてあること哀し梅一枝
仮の世の仮の身ながら汗沁みる
現世(うつしよ)の跡を記してなめくぢり
冬蜂や替わる職なく家もなく
梟(ふくろう)の声をゲバラと思ひけり
この花を見られぬ人のありにけり
死囚たることを忘るる風邪ごこち
「棺一基 大道寺将司全句集」を読み、15句選びました。
大道寺さんは爆弾テロの実行犯で、死刑が確定している。もう何十年も、そしていまも獄中で生活している。