いつものように朝、満員電車の中で音楽を聞きながら、ゆらゆらと揺れていると、ふいに、そこに乗っている人たち、いままさに電車に乗って会社なり学校なりに行こうとしている人たち、その時間の中で起こっているすべてのこと、がたんがたんという音や、流れいく風景や、その時間にうずまく思考や、空気のかすかな動きやなんかが、すでにこの世界にない、失われたもののように思えた。実際にはいままさに起こっていることなのに。そして、なんだかきゅうに(まだ失われていないのに、まるでほんとうに失われたように思って)悲しくなった。しかし、それらは、そのうち失われるには違いないのだし、自分の考えが完全に間違っているとも言えないだろう。