左半分は旅に出るのが好きな冒険家の精神を持っていた。右半分は本を読むのが好きであまり人とは話したがらなかった。昔は、ふたりはひとりだった。左半分と右半分は、四歳の誕生日を迎える前に別れてしまった。それは事故としか言いようがなかった。空から降ってきた正体不明の巨大な刃物が彼らをまっぷたつに引き裂いた。しかし、なぜか死ななかった。強烈な痛みが三日三晩続いたが、痛みが引いたあとはどこも痛くなかった。それ以来、ふたりは別れて生きている。手は一本、足も一本、目も耳も鼻の穴もひとつきり。それでもなんとか生きていくことはできた。歩き方は奇妙だし、見た目はあきらかに普通ではなかったが、学校にも通ったし朝の体操もこなした。そういう風にしてふたりは成長していった。成長していくと、ふたりの性格の違いがあきらかになっていった。いつのまにか、それぞれの個性が表へ見えるようになってきた。ふたりは成績も違うし、好きになる女の子も違った。足のはやさも違った。でも、ふたりは仲良しだった。ふざけて、「ひとりの人」のようにして遊ぶこともあった。普通の男の子だと思っていたはじめて会った人の前で、ふたりに分かれてみせ、驚かせてはおもしろそうに笑った。ふたりはなにも負い目を感じることはなかった。大きな悩みもなかった。ふたりは時々、昔自分たちがひとりであることを思い出して懐かしんだ。ふたりは、姿形が奇妙であることを除けば、どこにでもいるごく普通の兄弟か友達のようだった。ふたりは毎日をそういう風にしてすごしていた。幸せな日々だったとも言える。その日、本当の意味でふたりを引き裂くまでは。