夢を見た。
選挙へ行くと、どの候補者も素晴らしい人物ばかりで、だれへ投票するか迷うほどだった。自分はなかでも、優しい顔つきをした、頭の良さそうな、そして、しっかりと国のために働いてくれそうな候補者へ投票した。家へ帰りテレビをつけると、もう開票がはじまっていて、自分が投票した候補者の当選が決まった。彼は、この国のためにしっかり働きますと言った。自分はその言葉を信じた。
その日から、自分の生活はだんだんと良い方向へむかった。自分にぴったりの仕事が見つかり、収入が上がった。仕事がうまくいっているからか、心に余裕ができ、優しい恋人も見つかった。将来は結婚しようと約束しあった。毎日幸せだった。まわりのみんなも幸せそうな顔をしていた。それもすべて、政治家が一生懸命に働いてくれているからだった。政治家について悪いことを言う人はだれもいなかった。みんな、政治家について、わたしたちのことをよく考えてくれている、子供も安心して生めるし、老後も心配ないと言った。自分もその通りだと思った。なにも言うことがなかった。政治家はだれも嘘をつかなかった。有言実行、すべて国民に約束したことを実行にうつした。無駄な政策はひとつもなかった。子供は政治家にあこがれ、大人になったら政治家になるんだと、口々に話した。親たちはそういう子供のことを頼もしいと思った。困ったことがあれば、政治家がすぐに助けてくれた。
ほかの国との外交もうまくいっていたし、積極的に貧しい国へ援助した。世界中の国から尊敬された。みんな、この国に生まれてきて良かったと思っていた。生まれてきたこと自体を幸せなことだと思った。みずから死を選ぶ人はひとりもいなかった。みんな、困った人がいれば自分が助けるんだと言っていた。政治家が良い見本になっていた。欲張りな人はだれもいなかった。欲張る必要がなかった。
あの選挙から50年が経った。自分は幸せな顔をして、永遠の眠りについた。妻や子供、孫に看取られながら、この世であった楽しいこと、美しいこと、幸せなことを思い出しながら、あの世に旅立った。
そして、目がさめた。今日も、ただひたすら耐えるだけの、つらい労働が待っていた。