もぐらが持ちあげし土のその陽の色


つくづく淋しい我が影よ動かして見る


船乗りと山の温泉に来て雨をきいてる


昼の蚊たたいて古新聞よんで


うそをついたやうな昼の月がある


何かつかまえた顔で児が薮から出て来た


馬の大きな足が折りたたまれた


傘にばりばり雨音さして逢ひに来た


わが顔ぶらさげてあやまりにゆく


蟻が出ぬようになつた蟻の穴


笑へば泣くように見える顔よりほかなかつた


なんにもない机の引き出しをあけて見る


田舎の小さな新聞をすぐに読んでしまつた


豆を煮つめる自分の一日だつた


すばらしい乳房だ蚊が居る


とんぼが淋しい机にとまりに来てくれた


髪の美くしさもてあまして居る


その手がいつ迄太鼓たたいて居るのか


来る船来る船に一つの島


漬物石がころがつて居た家を借りることにする


久しぶりに片目が蜜柑うりに来た


落ち葉ふんで来る音が犬であつた


芋喰つて生きる居るわれハ芋の化物


すぐ死ぬくせにうるさい蠅だ


どうしても動かぬ牛が小便をした



岩波文庫の尾崎放哉句集(池内紀編)を少し前に読んだのだけれど、そこから自分が特にぐっときたものを25句選びました。