上野。
公園を抜けたあとの交差点で、信号が青になっているにも関わらず自動車が止まっていて、なにかと思ったら道路の真ん中にカラスがいる。自動車が走ればひかれるのに、止まってくれることを知っているのだろうか。人間の邪魔をするのに喜びを感じているのか…へんなカラスだと思いながらそのあたりを歩いていると、急に頭を強く引っ掻かれた痛みを受けて、なにごとかと驚くひまもなく、次の瞬間また同じ痛みがあって、どうやらカラスが頭に乗りかかったようなのだけれど、視界にその姿をとらえることはできず、古い漫画みたいなことが自分に起こった馬鹿馬鹿しさに笑いさえ出そうになりながらも、呆然とするしかなかった。少し場所を離れて安全を確保し、そこで人間との戦いを挑んでいるカラスの様子を観察すると、カラスはあいかわらず道路をよちよち歩いて自動車を邪魔し、また別のカラスは上空から人間の頭を狙っている。なんのために?ただほんとうに悪意のみの行動だと思えたのだけれど、まったく変わった生き物だ(人間と同じように?)とそればかり考えた。
芸大で、茂木さんの美術解剖学を受ける。もしかしたら茂木さんのソロ(?)の授業を生で聞くのははじめてではないだろうか。人間の感情の種類をふたつに分けて、感情は不確実性に対処するためにあるという科学的なアプローチで説明つく種類のものと、それでは説明のつかない無限や断絶などを考えたときの感情は、なぜいったい存在するのかという話。それからもうひとつは自己批評性についての話で、夏目漱石の「我輩は猫である」を引きながら、芸術において自己批評性は大事であるということを言って、原稿用紙を全員に配り、自己批評の文章を書かされ、発表しなければならないという事態になったのだけれど、自分はいちおう原稿用紙を埋めながらも、恥ずかしくて発表はせず、いろいろな人が立派に自己批評の発表をするのを、ただ下を向いて聞いているだけだった…。
帰り、公園を歩いていると、大きな喫茶店の前の門のところに人が集まっていて、なにかと思って近づいてみると映画の撮影をしているようで、高いやぐらのようなものをつくってその上に人が何人かいて、ホースやスプリンクラーで人工の雨をつくっていたり、驚くべき光量の照明がたかれていたりする、まさに映画の現場的な光景が繰り広げられていて、興味津々遠くから見学したのだけれど、あまりに離れていたし、自分のよく知っているような役者もいないようだったので、しばらく見た後、上野駅へ向かって歩き出した。