セミが鳴きだした。
ボールを蹴りあって遊ぶ人たちが見える。走る人。おもちゃの簡単な飛行機を飛ばす人。歩く人たち。テニスコートでテニス。ほんものの飛行機。白い小さなたくさんの花。置きざりにされた自転車。かごに入ったダンボール。タオル。二匹のトンボ。地面を歩く黒い名前のない虫。下に垂れさがった葉っぱ。白と水色の空。高くこまかい鳥の鳴き声。ボールで遊ぶ人たちのにごった叫び声。緑色の群れ。本を読みながら歩く外国人。帽子をかぶった人。いつの間にかセミは鳴きやんでいる。ほとんど時間はたたない。影が短い。
椅子に座って見る。日影から見る。三次元に飛ぶ鳥。地面にしがみついた雑草。ころがった石と砂の無口なようす。黄色いボールが動く。風が肌に当たる。白い犬が走る。かけ声をかけながら体操する学生たち。どこからか、ボール遊びを禁じるアナウンス。光がうすくなって影とまじる。またあらわれる。
小さい頭痛。またセミ。走る人。遊具で遊ぶ子どもたちの声。姿は見えないけれど、すべり台のようだ。遠くには鉄棒が見える(だれも使っていない)。草があたためられ、その匂いが風に乗って届く。音がまた大きくなる。自動車、鳥、セミ、子ども、体操、ボール、テニス、風、葉っぱ、地面を蹴る音。
体操をしていた学生たちは陸上部だった。変わった恰好をして、前を走り抜け、また元の位置に戻り、繰り返す。
ボートが浮かべられた場所の前へ行く。土曜の人々が呑気にボートを浮かべて水をかきまわしている。自分と同じようにベンチには人が座り飲み物を飲んだり話をしたり煙草をふかしたり偉そうにしたりしている。大道芸人ふうの音楽が流れていて公園は陽気さにあふれている。
へんな抽象的な不安がゆっくりと消えていく。光のかたまりがどっしりと落ちて砕けていく。人の声が空気の中にぼんやりとただよっている。
なにも衝撃的なことは起こらない。さっき蛇を見たけれど…蛇はゆっくりと動いてどこかへいった。まだ若そうな蛇だった。それで、自分も簡単に歩いた。自分もどこかへむかっている。雲が光を隠して気温が下がる。影が溶ける。いったりきたりするボート。音楽がやみ、鳥の声がはっきりと聞こえる。カラス。ボートをこぐ音。そうしてまた無邪気な音楽。歩く人の音。削り取られる水の表面。葉っぱが落ちる。