古川日出男の「サマーバケーションEP」という小説を読んだ。あるところで褒めていて、しかも物語が、神田川をずっと歩いて下っていくということらしいから、ぜひ読んでみようと思い、昨日図書館で借りてきた。自分も、東京へ来たはじめのころに、神田川を歩いて下ったことがあるから、それがどういうふうに書かれているのかが気になった。正確には、自分の場合、井の頭線沿いに歩いたということだけれど、途中まで井の頭線神田川は、ほとんど並んでいるから。それで自分は、たしか吉祥寺から下北沢まで歩き、また違う日に下北沢から渋谷まで歩いたのだけれど、この小説は、神田川隅田川に合流し、海につながるところまで歩いていく。自分と違って、ひとりではなく、大人数で。
それで、読んでみて、小説自体のおもしろさは、正直あまり感じなかったけれど、しかし小説の中に、自分の知っている場所がたくさん出てくるのは、いままでの経験になかったことだ。出発地は井の頭公園だし、いま自分が住んでいる近所も出てくるし、ほかにもたとえば、主人公たちが休憩するのは、高井戸のミスタードーナツだったりする(自分は偶然、昨日その店で買ったドーナツを食べていた)。そういう、小説と現実の体験、記憶とリンクしたところがあるのが、おもしろかった。…でも、ほとんどの人は、そういう読み方にはならないだろうから、この読書体験は特殊なものだろう。たとえば、自分はよくある感じで、高校生のときに村上春樹をひと通り読んだのだけれど、小説の中にはやたらと東京のいろいろな地名が出てきて、しかし自分は当時、まったくその場所のことが分からなくて(東京へ行ったことがなかった)、青山といわれても、五反田といわれても、たいして違いはなかった。なんとなく言葉の響きで、雰囲気を想像するしかなく、実際の場所を知っている人とは、読み方が大きく違っていただろう。


また、今日の夜は、チェルフィッチュの「フリータイム」をテレビでしていたので、見た。大江健三郎岡田利規の対談も見れた。しっかり長い時間放送されたので、嬉しかった(この対談は、見学を申し込もうと思い、うっかり忘れてしまったものだ)。