垣根のむこうを荷馬車の通り過ぎる音が聞こえていた。弱々しく揺れる葉むらの隙間から、ときどき馬車の姿が見えた。真夏になると木の轅や車輪は、なんてひどい音で軋むんだろう!日雇いたちが野良から戻って来て、恥知らずな笑い声を響かせて行く。
 ぼくはうちの小さなブランコに腰をかけていた。ぼくは樹木に囲まれた両親の家の庭で、ぼんやりと休んでいたのだった。
 垣根の外を絶えず何かが通って行く。今しがた子どもたちが駆け抜けて行った。積み上げた麦束の上に男たち女たちを乗せて荷馬車が通り過ぎ、庭の花壇は暫くその影で薄暗くなった。夕方近く、ステッキをもった紳士がゆっくりと散歩するのが見え、腕を絡み合わせて近づいてきた二、三の女の子たちが、挨拶しながら傍らの草地によけて、道を譲った。
 それから小鳥の群れが火花を散らすように飛び立った。小鳥たちが夕空高く一息に昇っていくのを目で追っていると、しまいにはかれらが上がっていくのではなく、自分が落ちて行くような感じになって、綱にしがみつきながらも急に力が抜け、すこしブランコを揺さぶり始めてしまう。そのうち次第にブランコを強く漕ぎはじめていて、いつしか涼しい風が立ち、飛び交う小鳥たちの姿は消えて、空に星が瞬いていた。
 蝋燭の光の中でぼくは晩御飯を食べた。ぼくはよく両肘を木の食卓に突いて、はやくも疲れた気持ちでバタパンを噛むのだった。粗いレースのカーテンが温かい風を受けてふくらみ、ときおり外を通りかかる誰彼がそれを手で止めて、ぼくの様子を見たり、ぼくと話そうとしたりした。蝋燭はたいていすぐに消え、暗い蝋燭の煙のなかをまだしばらく、蚊の群れが飛び迷っていた。窓から誰かがぼくに声を掛けてきても、ぼくは遠くの山なみを見るかのように、あるいは何もないただの空気を見るかのように、その人を見つめるだけだった。むこうも答えを待っている訳ではなかった。
 カフカ「街道の子どもたち」より)