土曜日の正午すぎ。さっき山崎ナオコーラの「ここに消えない会話がある」読み終わった。小説的な書き方っていいなと思う。リアリズムでないものも好きだけれど、リアリズムもいい。どちらもいい。それにしても今日は天気が良くって、はやく外に出かけたい。べつにたいした用事はないけど。
昨日のことを、小説を読んだことに影響されて、少し書いておこうかなと思った。


昨日は、自分はよくあることなのだけれど、一度起きたあとにまた寝て、いつもは30分くらいでまた起きるのに、昨日は3時間くらい寝てしまった。労働へ行くのが難しくなった。それで、あきらめて、東京都庭園美術館で開催する、ロシア構成主義の「ロトチェンコ+ステパーノワ」展の、特別鑑賞会に行こうと思った。前に、服部一成さんに鑑賞会のチケットを頂いていて、二名までそのチケットで入れる、しかもカタログももらえるということだった。労働があるので行くのを迷っていたのだけれど、寝坊したことによって、行くことに決めた。
しかし二名まで入れるので、ひとりで行くのは少しもったいないと思い、友達のニソウギ君に電話して誘ってみた。しかしニソウギ君は労働の準備中で、行けないことが分かった。どうしようと思い、ひとりで行ってもいいのだけれど、せっかくだからと、急に思いついてツイッターで、いっしょに行ける人がいないか呼びかけてみた。1時間のあいだに連絡をくださいと。数度ツイートを繰り返したのだけれど、だれからも返事がなく、もうだめかと思っていたところ、ひとり、前に個展へ来てくれ、その後自分もその人の展示を見に行ったM君が連絡をくれた。そうして、連絡を取り合い、もうあまり時間がないので、いそいで準備をして、電車に乗り、美術館の最寄り駅である目黒へ向かった。10分くらいはやく着いてしまった。
時間ちょうどにM君があらわれ、少し雨が降っていたが、自分は傘を持ってきていなかったので、傘をささずに歩いて美術館へ向かった。庭園美術館は東京の美術館のなかでも、もしかしたら一番好きな美術館かもしれない。どこかむかしの皇族か華族かの邸宅のようだった建物で、外見も内部も落ち着いていて、アールデコの様式が見える。建物のまわりは庭園が囲んでいるし、すぐそばは自然文化園になっていて、こちらも東京とは思えないような自然が残っている。
重いカタログを受け取り、さっそく展覧会を見ていく。ロシア構成主義自体、あまり自分にはなじみがなかったが、かなりおもしろく、目や頭が喜んだ。一階は絵画や版画など、絵が多く、二階はポスターや立体物、テキスタイルの原画、写真もある。立体作品のなかのひとつ、木を複雑に組んだような、塔のようなオブジェのようなものが、一番気になり、仔細に観察した。まわりをぐるりと数度まわった。
M君とは別々に見てまわった。特別鑑賞会は、公開に先立ち関係者を呼んで展覧会を紹介するもので、レセプションのようなものもある。二階を見ているときに館内アナウンスがあり、1階に集まるよう言われたが、無視してひと通り見た。土産屋でポストカードを三枚買った。マグカップも欲しかったが1500円は少し高いので買わなかった。
1階へ戻ると、入り口入ってすぐの一番大きい空間で、レセプションが行われているらしく、人が大勢集まっている。しかし人の壁によってほとんど見えず、挨拶しているらしい声だけが聞こえる。1階の展示をあらためて見直して時間をすごし、終わるのを待って、出た。
出るときに、服部さんとすれ違って、声をかけられた。あっと思った。事務所の方といっしょだった。「どう、良かった?」と聞かれたので「良かったです」と答えた。ほんとうに良かったので。それから、あとでお茶をしようと言われる。庭園のなかにあるカフェのようなところで、少しパーティのようなことが行われていたので、そこでお話することになった。M君と庭園を少し歩いたあと、カフェへ行って、なにか飲んだり食べたりして待った。少しして服部さんから電話がかかってきた。いろいろ関係者の人に話しかけられるので、かなり待たせてしまう、話をするのは難しいかも、と。せっかくなのでお話したかったので(「真夜中」のこととか)、いったん美術館を出て、もともと行こうと思っていた白金台のブックオフへ行き、時間をつぶすことにした。また濡れながら歩く。思ったよりも距離があった。
このブックオフは少し変わっていて、場所柄、店構えも普通の店より高級感があり、カフェが併設されている。また、一階と地下に分かれているのだけれど、地下は半分くらい洋書のコーナーになっている。海外の、画集や写真集、雑誌、絵本など、あまり見ない本を見つけることができるのだけれど、今日は、服部さんのことが気になって、本を探す気分にはなれなかった。しかし一冊、普通の単行本だけ200円で買った。対談集のようなもの。
また歩いて美術館へ戻り、カフェへ行ったが、服部さんはいなかった。もう帰ってしまったのかと思い、電話をかけてみるが出ない。あきらめて自分たちも帰ろうと、歩き出すと、M君が「服部さん」と声を出した。見ると、早足で出口へ急ぐ服部さんの姿を見つける。走って行って後ろから「服部さん」と言う。なんとか、無事に会えて良かった。
美術館のパーティはもう終わりのようなので、近くの、どこかお茶ができるところを探すことになった。目黒駅の方へむかう。自分は傘を持っていなかったので、服部さんと相合い傘をすることになった。自分が傘を持った。歩いていくと、道路沿いにドトールともう一軒カフェがあったので、入ってみたが、どちらも客でいっぱいだった。あきらめて、別の店を探すことにする。歩いているとき、服部さんと「真夜中」のことなどを話した。気になっていたことや、表紙のこと、紙の質のこと、雑誌全体のことなど。また、ツイッターのことなんかも話した。
歩いていて、駅に近づいてきたときに服部さんが、ウエストという名曲喫茶があるのでそこへ行こうと言った。よく分からないが、自分たちはついていくほかにない。駅の反対側にあり、思ったより歩く。美術館から、その店まで15分から20分くらい歩いたかもしれない。ゆるい坂をくだる。
その店は、変わっていた。古くからあるというしるしが随所に見られた。しかし、清潔で、気が行き届いていて、落ち着いていた。なんとなく、別の時代へ迷い込んだ気分になった。服部さんが店にかかっている絵を指し示し、あそこにかかっているのが藤田嗣治の絵、と教えてくれた。白いカーテンにまるい穴がいくつも開いていたが、それは換気扇のかたちに合わせて切り抜かれているのだった。
メニューを持ってきたウェイトレスの女性も、店全体の雰囲気と同じ感じがした。清潔で、気が行き届いていて、落ち着いていた。全体的に白っぽかった。服部さんとM君はジンジャエール(辛口)を注文し、自分はミルクティ、事務所のYさんはハーブティを注文した。
服部さんは展覧会のカタログを取り出し、白い布のかかったテーブルに乗せた。Yさんが「服部さん解説してください」と言った。1ページずつページをめくりながら、絵や写真を見ていく。この絵の向きが、上下逆だったんだよ、とか、この赤色が実物と違った、とか、この絵が好き、とか。でも全体的に、今回の展覧会と絵について、服部さんの評価はかなり高かった。好きな絵や作品がたくさんあるようだった。また、話を聞いていると、自分の見方と違うところも多いし、自分がとくに良いと思わなかったのも、良かったと言われる。それが、おもしろかった。立体の、自分が良いと思った作品のところにきたとき、「これすごい好きでした」と言ったら、qpの作品と似ている、と言われた。
飲み物がきて、それを飲みながら、雑多なことを話す。最近見た展覧会、湯村輝彦のむかしの仕事について、横尾忠則とロトチェンコの関わり。M君やYさんの話もした。自分はYさんのポスターやジンを少し前に見ていたので、そのことも少しふれた。ほかにもたぶんいろいろなことを話したと思う。席に座っていた時間は覚えていないが、1時間くらいかもしれない。とにかく、そういうふうにして時間が流れ、店をあとにした。
服部さんたちはタクシーで帰った。最後、自分は傘を持っていなかったので、服部さんは自分に傘をくれると渡してくれたのだけれど、なぜか、大丈夫です、と、後から乗り込むYさんに、服部さんの傘を手渡した。なにか傘をもらうのは、申し訳ないような気がした。普通のビニール傘だったが。
それからふたりで目黒駅まで歩き、電車で帰った。仕事を終えて帰宅をいそぐ背広姿の男女が、多かったような気がする。でも、あまり覚えていない。