来年の1月に名古屋でおこなわれる展覧会「であ、しゅとぅるむ」展に参加することになっています。この展覧会は、「イコノフォビア」展でも関わりのあった筒井宏樹さんが企画している展覧会で、すこし変わったものになりそうです。
筒井宏樹さんのブログ(「であ、しゅとぅるむ」展 準備の日々)
http://ameblo.jp/oossiii/


自分は、qp個人として参加するのではなく「qpとべつの星」として参加することになっています。この、「○○となんとか」というのが、むかしのグループサウンズ(内山田洋とクール・ファイブ的な…)みたいで、おもしろい響きがあるのですが、つまり個人で参加するのではなく、なにかバックグラウンドに共通するものを持つグループとして参加するという意図があるようです。展覧会の中でさらにいろいろな展覧会があるようなイメージでしょうか。自分以外は、たとえば「二艘木洋行とお絵かき掲示板展」などが参加することになっていますが、その他どんな人たちが参加するのか、実は最終的なところは自分も知りません(でも、聞いている範囲では、かなりおもしろそうなメンバーですし、自分が好きな人も多いです)。


それから「べつの星」というのは、説明は不要かもしれませんが、自分が去年の4月に企画した展覧会の名前で、10人の参加者がいます。自分自身は作品としては参加していません。
「べつの星」展記録写真
http://d.hatena.ne.jp/com/20110506


今回は、「べつの星」のメンバーそれぞれについて、一度なにか文章を書いてくださいという筒井さんの希望を受け、書くことにしました。
「べつの星」展に参加してくれたメンバーを選ぶにあたって、まずは自分の好きな絵を描く人を選ばせてもらったのはあるんですが、もうひとつは、まったく会ったことのない人ではなく、元々の友だちだったり、会って話したことがあったり、なにかしら面識のある人を選んだというのがあります。今回は、絵について分析するのは控えめに、それぞれの方との個人的な出会いやエピソードについて、なにか書ければと思っています。順番は、五十音順です。



會本久美子さん
會本さんとの出会いは10人の中では古いほうだと思います。おそらく2007年とかでしょうか(ちなみに、自分は2004年の秋に東京に出てきて、「べつの星」のメンバーとはみんなそれ以降に出会っています)。
実は會本さんとはじめて会ったのがいつだったのか思い出そうとしているのですが、うまく思い出せません。本人に聞いたら覚えているかもしれません。會本さんのプロフィールを見ると2007年に「イラストレーション」誌のザ・チョイスに入選してるのですが、これは覚えていますし、それより以前に会っている気がします。
それはともかく、べつの話をすると、いまはもうなくなってしまった吉祥寺の四月というお店(服屋さん兼雑貨屋さん)があって、そこで會本さんが店長をしていたので、当時近所に住んでいた自分は、3ヶ月とか半年に一度くらいのペースでお店に行き、変わったものがないか物色したり、少し話したりしていました。よく覚えているのは、お店に會本さんの趣味を反映したポストカードや印刷物、會本さん自身の絵などが貼られていて、それが時間が経つごとに増えていったことです。売り物ではないそれらを貼ることはお店の経営的には意味のないことだと思いますが、そういうことをしてしまうのはなんだかとても分かるという気がして、親近感を覚えました。
ある日、四月に行ったときに「わたし今度結婚するんです」と言われたのも印象深く覚えています。それからしばらくして四月もなくなりましたが、「べつの星」展を開催する少し前にちょうど出産されました。出産する直前まで絵を描いていたと聞いたときはさすが會本さんと関心し、うれしく思いました。はじめての出産は大きな経験だと思いますが、「べつの星」展に出してくれた絵(おなかに赤ちゃんがいたころに描いた絵だと思います)は、その経験が反映されているように思えました。
會本さんの絵について触れると、線の魅力がとても大きく、こういう線を引けるのはやはり才能だと思います。自然に描いた人物や鳥、木々、カーテンそのほかのモノや模様が、會本さんの線としかいえないような独特な線になっていて、生き生きとしているように見えます。イラストレーターとしても活躍していますが、イラスト的な「説明」にとどまらない不思議さや、暗さ等もふくんでいるように思えて、そこがとても魅力的です。どこかふわりと浮かんでいるような感触もあります。ネイティブアメリカンやフォークなもの、古いものへの好みも感じられて、そこも自分が惹かれるところです。



川島莉枝さん
川島さんとの出会いははっきり覚えています。自分が大賞をとった次の年(だったと思いますが…)のチョイスで選ばれ、年度賞にも入賞し、その大賞展のオープニングで会いました。大賞展ではじめて実物の作品を見て、またファイルを見て、その非ラフさというか、徹底した几帳面さとあやしい世界観(書いていて、なんて陳腐な言葉だと自分で辟易しますが)に魅了されました。連想されやすいのはヘンリー・ダーガーだと思いますし、実際似ている要素もありますが、ヘンリー・ダーガーよりももっと間違いを許さないという厳密さがあります。色も使っていません。一見、コンピューターで描いていると思ってしまうのですが、すべて手書きで、シャープペンシルを使っているそうです。ラフな作風が多い「べつの星」の中では異色の存在といえるかもしれません。まったくベタ(黒く塗ったところ)がないのも、絵に抜けた印象を持つ理由でしょうか。
川島さんと話をしていて、じつはお絵かき掲示板でも描いていたという話を聞いてえっと驚いたことがあります。また「放浪息子」等で有名な漫画家の志村貴子さんと知り合い、遊んだりする仲だそうです。志村さんがよく作品で描かれる同性愛の雰囲気も川島さんの絵にあるかもしれません。
川島さん自身も漫画を描いているらしく、コミティア等のイベントに出るとか出ないとかいう話を聞いたこともあります。しかし恥ずかしがって、内容等はよく教えてくれませんでした。たしか出来た漫画を送ってくれるという話があった気がするのですが、それも送られてきません…。漫画という、時間軸のある表現で川島さんがどんな物語を描くのか、とても興味があります。



田中佐季さん
田中さんと知り合ったのは、ツイッターを通じてでした。というと、なんだか軽い話になってしまいそうですが、要はツイッターにリンクされていた田中さんのウェブサイト(というかブログ)にあった絵に強く惹かれたのがはじまりでした。時期的には、自分がツイッターをはじめてしばらくしてからだと思うので、2010年はじめごろでしょうか。そこから、ツイッターやメール等で少しやりとりするようになったり、手紙をいただくようになりました。
田中さんとのエピソードはいろいろあるのですが、ブログに載せていた絵を直接見たいといったら、家に田中さんの絵が大量に送られてきてびっくりしたことがありました(数えてませんが200枚以上はあったと思います)。そして、パソコンのモニターではまったく分からなかったのですが、そのときはじめて、田中さんの絵が、半透明のトレーシングペーパーに描かれていたことを知りました。送られてきた絵は、もちろんあとで返しましたが、その前にせっかくなので誰かに見せたいと思い、田中さんと親交がある雰囲気(ツイッター等を見ていると…)のあった前田ひさえさんに見せたり、季刊「真夜中」(リトルモア)の編集長にお見せしたりしました。
田中さんの絵を、とても素晴らしいと思いましたし、それなのに世の中には知られてなさそうだということで、自分はできるだけ知ってほしい、こんな素晴らしい絵を描く人がいると広めたい、と思いました。「べつの星」という展覧会をしたいと思った小さくない理由のひとつが田中さんの絵の存在でした。
本人とお話しすると、とにかくいろいろなことをものすごくたくさん頭の中で考え、考えたことをぜんぶ伝えたい、というような印象を受けます。とても純粋で、また子どものような、といってもいいかもしれません。そしてそれが、絵にも表れていると思います。
田中さん本人、と思われる女の子がいて、そのまわりに自分の好きなもの、見て良いなと思ったもの、感動したものを描く、というよりも計算もなくただ並べる、というタイプの絵が多いと思います。きわめて個人的な、日記のような絵かもしれません。見る人にとっては、ただの葉っぱ、と思われる絵でも、田中さん本人にとっては、なにか感動した葉っぱを描いていて、描かなくてはいけないから描いた葉っぱなのです。ある種の遊びとして、色や線、物語を「使って」絵を描いている自分とは、大きく異なる制作法だと思います(といっても、これは、自分が勝手に受け取っていることであって、田中さん本人に聞くと違うと言われるかもしれません…)。
だれに見せるためでもない、日記のような、プライベートな絵だからこそ、自分は強く惹かれたんだと思います。



佐藤紀子さん
佐藤さんとはじめて会ったのはけっこう古いと思います。チョイス関係のなにかだった気がしますが、はっきり覚えていません…。
こんなことを書くのは恥ずかしいですが、「べつの星」の中ではいちばん話しやすくて、性別を超えて、なんとなく兄弟のような印象を持っています。
一度、佐藤さんの個展の初日に行くつもりでギャラリーへ行ったら、いまから搬入をするというタイミングだったことがあります。自分が日にちを一日間違えてしまったのですが、結局なぜかいっしょに搬入をし、佐藤さんの絵の並べ方にケチをつけて、こうしたほうがいい、ああしたほうがいい、と言いながら並べ方を二人で考えていった思い出があります。雨の日で、佐藤さんと自分の服のコーディネートがほとんど同じような感じで、それをギャラリーの人にからかわれたように覚えています。
佐藤さんは、湿ったところのない、かなりさっぱりした性格のように思いますが、それが絵にも共通しています。思い切りのよい線で、ざっくりと、ほとんど手数をかけずに絵を描いています。カラートーンを使って、マチスの切り絵的な絵を描くこともあります。女性を描くことが多いように思いますが、いつも無表情で、なにを考えているのか分かりません。どうにかすれば…なにかきっかけがあるか、仕事に貪欲になって絵の研究を深めるかすれば、イラストレーターとして活躍できるような気がしますが…。
不思議と本人とは絵の話をしたことがほとんどなく、今度どういうふうな考えで絵を描いているのか聞いてみたいです。



ナカノヨーコさん
ナカノさんは、自分がチョイスの年度賞で大賞に選ばれたときに、準大賞でした。ということで、はじめて会ったのはチョイス大賞展の授賞式・オープニングなので、2006年に会ってからの関係ということになります。ですが、じつはあまりたくさん話したということはなく、たぶん会った回数もそんなに多くはありません。
自分との関係でいうと、チョイスでのこと以外に、地元が近いということがあって、神戸市の、中心ではなく田舎のほう出身なのが同じです。あと、まったく同じ機種の、渋い紫色の携帯電話を使っていたので、それもびっくりしました。二人とも、ストラップ等なにも付けていませんでした。
ナカノさんの絵は、わりと最近になって、今までの絵とはまったく方向性の変わった絵を描きだして、驚きました。今までは、筆の跡を残した、少し儚いような、どこか定着させることを拒否したような、完成の二歩手前で止めたような絵を描いていたんですが、最近の絵は、あらかじめ計算して下絵をきっちり描いて、定規を使って線を細かく引いて描いていく…見た目は、むかしのヨーロッパの本の挿し絵(版画)のようなタイプの絵を描いています。前の絵も魅力的で、大好きだったんですが、最近の絵もすごくおもしろいです。
一度、絵を欲しいとメールし、結局買うことはできなかったんですが、手元に置いていつも見ていたいと思う魅力が、ナカノさんの絵にあるように思います。
「求めない」というベストセラーになった本の表紙(と挿絵)の仕事をされて、それなりに絵を知られたように思いますが、自分としては、もっともっと評価されていいと(すみません偉そうで)思います。なにを描くかというモチーフ(という言葉はあまり好きではないですが)の部分でも、とてもおもしろい感覚があると思いますし、ときどき絵の中に言葉が入るのですが、それも絶妙な言葉を選んでいて、描き方を含めとても魅了されます。



ナガバサヨさん
ナガバさんの絵をはじめて見たのは、グラフィックアート「ひとつぼ展」でした。自分もこのコンペに応募し、それがきっかけではじめて個展をしたので思い入れがあるのですが、自分の後の「ひとつぼ展」でナガバさんの絵を見て、すごくおもしろいと思い、話しかけたのがはじめて会った時だと記憶しています。以来ナガバさんは、「ひとつぼ展」から「1_WALL」展に名前を変えた後のコンペにも何度か入選するのですが、グランプリにはいつもぎりぎり選ばれず、そのたびに自分は悔しいなと思っていました。
ナガバさんの作品が、他の「べつの星」の人たちの作品と大きく違うのは、まず人を描いてないということでしょうか。他の「べつの星」の人たちは基本的に人物を描く人が多いです(と思ったんですが、ナカノヨーコさんも人を描かないですね…)。
絵を描く人に、(1)人物をかならず描く人、(2)人物を描く時と描かない時がある人、(3)まったく描かない人、がいると大きく分けることができるとして、ナガバさんは(3)ですね(ちなみに自分は(2)です)。
ナガバさんの絵はかなり変わっているように自分には思えます。一見、抽象的な絵のように見えますが、本人がいうには、なにかある特定の気になるモチーフ(という言葉はあまり好きではないです、と前も書きましたが)、たとえばピアノの鍵盤、たとえばソファに付いてるボタンのようなもの、などの形を、それ本来の色使いを変えて、繰り返し描いているようです。という情報をあらかじめ入れて絵を見ると、たしかにそういうもののように見えます。が、ほとんどその現実的にあるものの形は、よく見ないと分かりません。アール・ブリュットの作家で、日記を描き、その文字のそれぞれを、文字の意味を無視して「かたち」に分解し、黒く塗りつぶす部分をつくることで、文字が解体してなにか抽象的な絵に見える、という作品(という意識は本人にはないでしょうが)をつくっている人がいるのですが、ナガバさんが絵でしていることはそれに近いかもしれません。
ナガバさんの絵は、広告の裏やなにかの包み紙など、身近にあるものの上に描くことも多く、それもアール・ブリュットの作家と意識が近いかもしれません。うまくいえないですが、たぶん、完成した絵をつくるためというよりも、絵をつくるための作業というか、過程そのものが目的になっているところがあるのではないか、と思います。



はまぐちさくらこさん
はまぐちさんの絵をはじめて見たのは、はまぐちさんがGEISEIで金賞をとった次の次の回のGEISEIでだったと思います。ということは、2005年3月のGEISAI#7ということになるでしょうか(ちなみにGEISEI自体もこの回にはじめて行き、その後はしばらく連続で遊びに行ってました)。
このとき、はまぐちさんの絵を見てすぐに好きになり、ポストカード大の絵を2枚買いました(たしか1枚500円で)。そのとき以来ファンになって、個人的にも話すようになり、なにか展示があるたびに足を運ぶようになりました。はまぐちさんは京都に住んでいるのですが、かなりの回数、東京でも展示をしていて、たぶん自分が見た絵の展示の中で、もっともたくさん見てるのが、はまぐちさんの展示だと思います。
はまぐちさんの絵を言葉にすると、すごく簡単にいうと無邪気で自由、ということになるでしょうか。非常にラフな筆遣いで、一見すると子どもの描いた絵のように見えるかもしれません。ふつうなら守る絵のルールをぜんぜん気にせず、あることさえ知らないといった感じで、とても大胆な絵です。しかし絵のまとまりやバランスは、崩れているようでぎりぎり取れているようにも見えます。そのへんのきわどい感じや、それからはまぐちさん独特の、絵に重力がない感じが、自分にはとても魅力的に思えます。本人に会って話すとふわふわした印象を受けるのですが、これは絵の無重力な感じと共通していて、やっぱり絵と本人は似るんだなとあらためて思います。
「べつの星」の他の方とくらべて、サイズ的、スケール的に大きい絵を描くのも、はまぐちさんの特徴でしょうか。
また、ときどき自作の絵を使って紙芝居もするのですが、そのときの演技の仕方、声の出し方もまた、はまぐちさんの絵のように、ルールなんてないという感じで、自分たちがふだん耳にする声の出し方ではない出し方をしていて、驚かされます。漫画、絵本、文章(詩)なども破格なところがあり、あまり気軽に使う言葉ではないですが、天才的な人と思っています。
この前京都で個展をしたときにはまぐちさんに会ったのですが、こんなはまぐちさんでも絵で悩んでいると言っていて、それを解消するために、なぜかしばらく台湾へ行くと聞きました。「であ、しゅとぅるむ」展の期間中も日本にいないそうですが、作品をどうするのか少し心配しています。



はやしはなこさん
はやしさんとの出会いは、田中さんと似ているのですが、もっと前にmixiが流行していたときに自分もやっていて、mixiのはやしさんのアイコンの船の絵を見ていいなと思い、メッセージを送るかなにかして、直接絵を見せてもらったのがはじめて会った時でした。2005年の春あたりだったと思います。2005年は自分が毎回チョイスに応募していた年なのですが(二か月に一回なので計6回)、はじめと次の回に連続して入選して、よし次もと思っていたのに三回目は外れて、かわりにはやしさんが入選したのでよく覚えています。
はやしさんが横浜にアトリエを持ったというので、ときどき遊びに行ったりしたのが、2006年あたりでしょうか。そこで、いまスケールの大きな作品をたくさん作っている淺井裕介君に出会ったりしました。また、はやしさんは、自分の親しい友だちの二艘木君ともセツモードセミナーのクラスメートで、全然違う方向にいると思っていた絵描きの友だち同士が元々つながりがあると知って驚きました。
はやしさんの絵はときどき自分に似ていると言われますし、コラージュはとくに近い感覚があると思います。基本的にはラフで、のびのびとしていて、装飾性が強く、女の子がよく出てきます。女の子は、線のラフな感じも手伝って、どこか地面に足をついていない感じがあります。人魚、ヘビ、家、そして船がよく登場します。コラージュの船シリーズは、はやしさんの絵の中で自分の一番好きなシリーズです。ステンシルの技法を使うこともありますが、はやしさんは昔グラフィティライターに憧れていたことがあったと聞いたことがあるので、そこからの影響かもしれません。
はやしさんの絵からはまた、絵本の挿絵やテキスタイルへの興味感じられて、自分も好きなのでとてもよく分かります。以前はもっと暗い傾向の絵も描いていたのですが、最近は明るい(軽い)絵が多くなってきた気がします。お母さんになったからかな、と思いますがどうなんでしょうか。イラストレーターとして仕事をしていく才能もあると、自分は思っています。



前田ひさえさん
前田さんとはじめて話したのがいつだったのかは覚えていませんが、親しくなったのは大体この2、3年だと思います。前田さんは佐藤紀子さんと仲良しで、佐藤さんの方が年上なのに自分は佐藤さんに対しては敬語を使わず、前田さんには敬語で話してしまいます。というか、「べつの星」の中で敬語で話すのは前田さんだけだと言ったほうがいいかもしれません。なぜなのか分かりませんが、なぜか敬語になってしまうのが前田さんで、自分は会うとけっこう緊張してしまいます。一度それで、自分に嫌われていると前田さんに勘違いされるくらいに冷たい態度をとってしまった(という意識は自分はなかったのにそう思われてしまった)ことがあったくらいで、あとで弁解したこともありました。
去年の今ごろ、前田さんが荻窪の六次元というカフェで「あの時 着ていた服」という個展をした時に、いろんな人に、むかし着ていた服のエピソードを書いてもらい、それを元に絵を描くというこころみをしていて自分も参加したのですが、中学生のときに着ていた紫色のLeeのトレーナーのことを書いて、それを絵にしてもらい嬉しかったです。
前田さんはクビーナというグループで活動したり、田中佐季さん、有本ゆみこさん、あんこさんの4人で「色ちゃん」という展覧会をしたり、またmemeというプロジェクトをしたりと、いろいろな活動をしていて、個人的には「べつの星」も忘れないでくださいとひそかに思っています。でも、いろいろな活動に誘われるのは前田さんの人望というか、人間的な魅力というか…「べつの星」の展覧会のときには自分も前田さんに頼ってしまった部分がありました。
前田さんの絵のあり方は、「べつの星」の中では會本さんに近いかもしれません。イラストレーターとして活動しつつ積極的に展覧会やジンなどで絵を発表しています。個人的にはやや暗めの鉛筆画が好きですが、水彩画も描かれています。どこか内省的で心の声のようなものが絵にあらわれているのが「べつの星」的かもしれません。絵に登場するアイテムは、男っぽく無骨な絵も少なくない「べつの星」の中では、女性を感じさせるものが多いように思います。
前田さんの描かれる文字も独特の雰囲気があって、「べつの星」展のときにはタイトル文字を会場の鏡に描いてもらいました。



森田晶子さん
森田さんとはじめて会ったのは、はまぐちさんと同じようにGEISAIというイベントでした。どの回だったか忘れましたが、はまぐちさんの二回あとくらいだったように思います。そのときにすごく好きだと思って、迷いましたが、油絵を一枚とドローイングを2枚購入しました。それから、どちらかの展示のときに会ったり、絵を交換したりしたこともあります。
そういえば、「べつの星」に参加してくれた人たちは、絵の学校であるセツモードセミナーに通っていた人がけっこういます。森田さんもそうですし、前田さん、はやしさん、佐藤さんもそうなので、4人ですね。セツモードセミナーというのは、デッサンというよりも、スケッチ的というか、短い時間で人物を線で表現するトレーニングをするところ、という印象があります。きっちりと対象を描写するのではなく、線自体の魅力が大事という哲学がある気もします。森田さんのドローイングも、線がとても魅力的で、惚れ惚れするようなところがあります。上手い漫画家の線のようだと思ったこともあります。
森田さんの絵は、基本的に物語を語っていると思いますが、それは現代ではなく、古い時代であったり、ファンタジーの世界の雰囲気を持っています。そういう絵を描く人はたぶん昔からいるんだろうと思いますが、逆に絵の塗り方や筆遣いが現代的に思えます。油絵は透明感がある描き方をしますし、白い絵の具を塗って、そこを削って線にするという描き方もされています。どうやって描くかという、絵を描く手法にたいして意識的な部分は、ほかの「べつの星」の人たちよりも強いかもしれません。また、本格的に油絵を描いていこうという意志も「べつの星」の中では唯一持っていると思います。活動としても、セツモードセミナーに通ってはいましたが、イラストレーターではなく、個展をして絵を売っていこうという、いわゆる画家としての意識があるようです。
また、「べつの星」という名前がまだなにもなかった頃、自分の好きな女性の絵描き10人くらいでグループ展ができたらな、と絵描きの実名入りでツイッターに書いたことがあり、しばらく放っていたのですが、あの展覧会やろうよと言ってくれたのが森田さんでした。やりたいというぼんやりした気持ちは持ちつつ、でも…と思っていたのですが、背中を押してくれたおかげで「べつの星」ができました。感謝しています。



少し長くなりましたが、以上「べつの星」メンバーについて書いてみました。それぞれの方の絵の理解が不正確であったり、間違っているところがあるかもしれませんが、その場合は申しわけないです。絵について文章であらわすのは難しいと思いました。


「べつの星」展が終わったときに、またいつか「べつの星」やりたいねみたいな空想の話をしつつ、しかし自分は準備等けっこう大変だったので、どちらかというと消極的でした。でも、こうやってある意味でまた新しい「べつの星」ができるということになって、良かったなと思いますし、不思議なことだなと思っています。ぜひ良いものにしたいです。