労働からの帰り、荻窪で買い物をしてから、家の方へ自転車で向かっていると、道路の真ん中になにか動物が倒れていたので、見るとタヌキだった。
そこを通る自動車の運転手も、なにか倒れていると気付くらしく、ゆっくりとよけて走ってくれたが、このままにはしておけないと思った。
自転車を止めて、タヌキのそばへ行って見てみると、まだ息があるように思われた。持ち上げようとしたが、その瞬間にふだん嗅がないような動物の匂いがしてひるんだ。そして、だれかが自分に声をかけたので、そちらを見ると、その道路にいちばん近い家のドアから、半分体を出しているような状態で、おばさんが、こちらをうかがっていた。
とにかくまずは持ち上げようと思い、意を決してタヌキの体の下に手を入れて、持ち上げると、思ったよりもやわらかく、そのやわらかさにまたひるんだ。前に労働の昼休みに見たタヌキもそうだったが、このタヌキもおそらく病気で毛がところどころ抜けていて、そのせいで直にタヌキの体のやわらかさが手に伝わってきた。そしてまた、生きている生き物のあたたかさも感じた。
タヌキを持って、そのおばさんの家の前まで行き、とりあえず安全そうなところに置いた。自分は、タヌキ、道路冷たいかもしれない、ごめんね、と思った。
おばさんが言うには、ドンッと大きな音がしたらしく、タヌキは車にひかれたという。そのまま、どうしたらいいか分からず、という状態だったらしい。どうしたらいいのか、と聞くので、自分もよく分からないままに、そうですね…区に連絡したほうがいいんじゃないですか、と答えた。前に、昼休みにタヌキを見たときも、納屋かどこかに入り込んだタヌキを、区の人らしき服装をした者たちが、捕まえようと奮闘していたのを見た記憶があったからだ。しかし、時間も遅いので、来てくれるかどうか分からなかった。とりあえず連絡した方がいいと自分は言った。
近くを通りかかった小学生の女の子が、え、それなに?犬?と聞いてきた。自分は、タヌキです、となぜか敬語で答えて、小学生にたいして敬語はおかしかったかな、と思った。えー、ありえないタヌキとか、と女の子は言い、しばらく様子をうかがった後、どこかへ行ってしまった。
おばさんが、ダンボールを持ってきて、このままだとカラスにつつかれるから、悪いんだけどあなた、タヌキをこの中へ入れてくれない?と言うので、自分はタヌキを持って、それに入れた。もうタヌキはかなり弱っていて、死んでしまうかもしれないと思ったら、涙が出そうになった。
あなたこのタヌキ世話してくれない?とわりと無責任におばさんが言うので、えっそれはちょっと、できないと思います…と答えた。どう世話をしたらいいのか分からない。
とりあえず区かどこかに連絡してくださいと自分は言い、あとはそのおばさんにまかせることにした。


でもタヌキはたぶん、死んでしまうだろうと思った。