及川さんと「風立ちぬ」の試写会に行った話


宮崎駿の新作「風立ちぬ」をずっと楽しみにしていて、試写会の応募をする機会が二回あったので二回とも応募したらどちらも当たった。


この前の11日に、まず時期が早い方の試写会で「風立ちぬ」は見て、もちろんまだ見ていない人ばかりだろうから感想はなにも書かないけれど、今日はもうひとつ当たった方の試写会に行った。何度かご飯食べたりお酒飲んだりして、そのときに宮崎駿の話をしたり、自分が持っていたラジオ番組「ジブリ汗まみれ」のDVDをお貸ししたりということがあったので、誰を誘おうかなと思ったときにすぐに及川さんの事が頭に浮かんで、及川さんを誘ったら今日の回なら行けるという事で、いっしょに行った。
及川さんと「風立ちぬ」いっしょに見れるというのは嬉しい。


荻窪で待ち合わせをして電車に乗って神保町へ行き、試写会の会場へ行った。11日の試写会もそうだったけれど、カメラを預けなければいけない決まりらしく、カメラを預けた。ちなみに何度か書いているポートレイト撮影の件、及川さんにもお願いしようかと少し思いつつ、でも写真撮られるの嫌いそうだからまあ言わないでいいかと思いつつ(「ほぼ日」の企画で高尾山へ登るというのがあり、及川さんも参加してたんだけど及川さんだけ写真NGみたいな扱いで、撮られていなかったし…)一応「どうですかね?」と聞くとやっぱり鈍い反応だったので撮影はできないけど、もともと期待してないので残念ということも思わなかった。


話を戻すと、会場へ行って、席について、ジブリアニメでどれが好きかとかいう誰でもしていそうな話で盛り上がりつつ開演を待って、そして映画を見て、見終わって、会場を後にした。
映画の内容についてはやっぱり触れません。


そして問題はここからです(前置きが長い)。
ご飯いっしょに食べようという事になっていたんだけれど、及川さんがカレー食べたいカレー食べたいというので、カレー食べようという事になり、神保町なのでカレーのお店たくさんあるだろうと、道をぶらぶらしていたら、ボンディというカレーの店の看板を見つけ、ボンディはカレーが好きな人の間ではとても有名な店なので自分も知っていて、いつか食べたいと思っていたので、ここにしましょうという事になり、表からはもう閉まっていて入れなかったので裏にまわって、およそ食事をする店があるとは思えない小汚いビルの二階に上がると、ボンディがあった。しかしそれなりに遅い時間にも関わらず(たしか9時くらい)人がいっぱいで、待たなければいけなかった。


まあ待つか、ということになり、ふたり椅子に座ったんだけど、自分はトイレへ行きたくなりトイレへ行った。男子用トイレは一階にあったので下に降りた。トイレへ入るとひとつしかない小の便器の方はすでに使われていたので、仕方なく大の方に入って用を足す事にした。
用を足しつつ、なにげなく前の壁を見ると、ひとつだけ落書きがあり、こう書いてあった。


ジャッキー・チェンも老けたな!」


ジャッキー・チェンも老けたな!」か…と思った。たしかにと思い、少し心の中で笑った。そして、これは写真に撮って及川さんに見せようと思い、カメラを取り出そうとした。そこで、カメラがないことに気付いた。
カメラを試写会の会場に入る前に預けたのをそこではじめて気付いたのだ。ああ…と思い、これは取りに行かなければいけないと思って、及川さんにそのことをつげて、息を切らしながら走って会場へ向かった。


試写会の会場であるホールは、あるビルの3階にあった。3階へ着いたが、さっきの人でごった返した様子とはうってかわって、まっ暗で人気がなかった。どうしようと思いつつ、警備員かビルの管理の人か、というような制服を着た人がいたので、その人にカメラを預けたまま出るときにもらうのを忘れたという事を説明した。少し慌てた様子でその人はトランシーバーでだれかと喋った。しかし問題が解決していないという事は分かった。とりあえず1階の警備員室?管理室?のようなところへ向かうのに、自分もついていった。
そこは、防犯カメラの映像がたくさん並んだ、映画やドラマでよく見るような部屋だった。もともと古いビルなのでその部屋も年季が入っていて、長年使い込まれたおもむきがあった。


他にすでに人がいて、警備員風の人は合わせて3人になった。その人たちが言うには、映画会社の人は最後に鍵を返しにくるはずだが、まだ返されていないので、どこかにいるはずだと言う。それを聞いて少しほっとしつつも、その映画会社の人(たち?)がどこにいるのか分からない。もしかしたら4階にいるかもしれないと誰かが言い、ひとりの警備員(たぶん)が4階へ行くというので自分もついていった。
4階に行ったがまっ暗で、誰もいなかった。そこでまた1階の警備員室に戻った。ぼんやり防犯カメラの映像を見つつ、不安な気持ちを持て余していた。カメラが見つかるかどうか、という不安とともに、及川さんにずっと待ってもらっているのが気がかりだった。


そもそも映画会社の人に電話したらいいのでは?とあるとき思い、それを言ったが、この会場へ来た担当者の番号は知らない、という。それなら、映画会社自体に電話して、今日ここへ来た人を調べてもらって、その人の番号を教えてもらえばいい、と提案した。するとその提案の通りに警備員の人が行動した。映画会社に電話をかけて、分かりにくい状況を、少しずつ説明していった。
と、そのとき、黒いスーツを着たそれなりに年齢のいったサラリーマン風の男が二人、ダンボール箱を抱えて入ってきた。その二人は映画会社の人だった。
どこへいっていたのか分からないけれど、とにかく会いたかった人に会えた安堵感を心に持ちつつ、カメラのことを説明した。すると、カメラは、目の前にあった机に座っていた警備員にすでに渡した、という話だった。えっと思い、そうなんですか…ではその人はどこに?と思っていると、映画会社の男が、そのカメラは、そこの机の下の引き出しに仕舞われるのを見た、と言う。そういうことなら、と思い、ひきだしを開けると、自分の見慣れたカメラが、白い紙に巻かれて入っていた。安心した気持ちで、及川さんをこれ以上待たせるわけにはいかないと、それを手に持った瞬間、だれかが部屋に入ってきた。その机の主の警備員さんだった。


警備員さんは突然、勝手に机を開けるな!と怒鳴った。そこは大事なものが入っているところで、勝手に開けてはいけない!
それはそうだけど、と思いつつ、その警備員さんは勝手に机を開けたことについてかなり立腹しているようで、怒った表情を崩さなかった。そして、映画会社の人に対しても怒りの矛先を向けた。映画会社の人は、自分が机を勝手に開けた事について「わたしがその机の引き出しに入れるところを見た、と言ったのでわたしが悪い」と自分をかばってくれた。引き出しを開けた責任は自分にある、と。
そうして、いまやその場は、職員室で先生に怒られる中学生たち、という雰囲気になっていた。その怒られる雰囲気を、少し懐かしく思っている自分もいた。
その怒った警備員さん(けっこう年配で、この警備員室で一番ベテランかもしれない)は、自分のカメラが「忘れ物」として届けられたが「忘れ物」ではなくほんとは「試写会の前に預けたけれど取り忘れた物」ではないのか、説明と違う、と言って怒ったりもした。映画会社の人は「以後注意します」と平謝りで、自分はなんだか申しわけない気持ちにもなった。


…そして、ようやく説教が終わり、カメラを受け取り、走ってボンディに向かった。
及川さんはひとり店に入らず、待っていた。
店内に入り、さっきの顛末を説明し、エビカレーを注文し、先に出てきた丸ごとのじゃがいもにバターを乗せて食べた。
エビカレーもおいしかったし、「風立ちぬ」の話もたくさんした。


そうして、帰りは水道橋まで歩こうということになり、歩きながら、しかし、カメラを忘れた事に気付いたのは、あのときトイレへ行ったからだし、トイレで小が使えず大のトイレへ入ったからだし、大のトイレで「ジャッキー・チェンも老けたな!」の落書きを見て、それを写真に撮ろうとしたからだ、と思った。
ジャッキー・チェンも老けたな!」の落書きを見なかったらもっとひどい事になっていたかもしれない、と思った。最悪、カメラを受け取るのが今日は無理で、また別の日になっていたかもしれない、と思った。
明日、ポートレイト撮影する人がふたりいて、ひとりは福島から、もうひとりは茨城からくるのに(このためではなく、東京へ来るついでに撮影させてもらうんだけど)もしカメラがなかったらすごく悔しい思いをした事だろう。


ということを思いながら、歩いた。
夜に歩くのは気持ちよかった。
終始、及川さんと色々な話をしていた。


電車に乗っていて、キリンの広告の看板があり、ジャッキー・チェンの写真があった。素人の願い事を叶えるという趣旨の広告で、ジャッキー・チェンと共演したい、という願いを叶えた広告だった。
及川さんが、あ、ジャッキー・チェンと言った。
あのジャッキー・チェン、qp君のカメラ持ってないかな、と言った。


少し笑った。