映画が観たい観たいと言っていましたが、ようやくレンタルビデオ屋のカードを作れたので、何本かDVDを借りて、観ました。感想を一言ずつ書いていきます(映画の内容にも触れますので、これから観ようと思っている方は注意してください)。



スティーヴン・スピルバーグ「マイノリティー・リポート」

物語が破綻しているんではないかと思いました。「未来において殺人を起こす人の、思考ではなく、行動を予知する」という特殊な能力を持つ人がいて、その人が殺人を予防し、全米の殺人犯罪をゼロにしている未来世界についての映画。主人公トム・クルーズはその組織で働き、犯罪を未然に防ぐ仕事をしているのですが、彼自身が殺人を犯すと予知されてしまうのです。そこから物語は、元同僚たちからの逃亡譚として展開するのですが、なんとその予知はぎりぎりのところで外れてしまうのです。誰に止められたわけでもなく、銃を撃とうとするのをやめるのです。思考に関係なく、行動を予知するはずなのに。これでは納得できません…とここまで書いて、そうでもないことに気が付きました。その殺人を犯すという予知を彼自身が知っているのですから、その時点で未来は変わっているとも言えます。だから殺人を犯さなかったとしても、物語は破綻していないのでしょうか。しかしそうだとすると、彼以外の、殺人を犯すと予知され、逮捕されて永久冷凍みたいにされている人は、はたしてそうされる必要があるのでしょうか。これは難しいところです。生まれつきの殺人者みたいな人はそうされるほうがよくて、そうでなくて突発的に殺人を犯してしまった人はそこまでされる必要はないような気もします。現実でも、精神錯乱とか、意図しないものとか、あるいは殺人者の動機によっては罪が軽くなりますよね。計画的で残虐なのは重くなる。映画の世界では、それらの殺人をすべて同じ罪として扱っているように思いました。映画は、往々にして時間的な限界がありますから、そういう問題を扱う余裕がなかったのかもしれません。あるいは物語を単純にして、分かりやすいものにする必要からの脚本だったのかもしれません。こういうSF作品においてルールの設定は重要だと思います。この映画でも、深く考えていくとそもそもルール自体に無理が見られるかもしれません。原作のフィリップ・K・ディックの小説ではどう書かれているのでしょうか…。まあしかし、そういう些細な設定のことは置いておくとしても、映画としては存分に楽しめました。シリアスな場面でも笑いを誘う演出が見られ、おかしかったです(ああいうのに否定的な人もいるだろうけれど、自分は賛成です。ああいうことをできる人は決まって優秀な監督です)。ううむ。しかしこの文章は分かりにくいな。申し訳ない。説明がややこしい映画なのです。



押井守「機動警察パトレーバーTHE MOVIE 2」

いつも思うのだけれど、どうしてこういう、丁寧に描写された日本の風景のアニメーションは、ただその風景だけで感動してしまうのだろうか。ジブリ作品、たとえば「耳をすませば」の団地の描写、あるいは「おもひでぽろぽろ」の、水たまりのある田んぼのでこぼこ道を走る車の描写…。たぶん日本人としての経験の記憶に響いているんだろうけれど、実写よりもアニメーションの方が心に来るというのはどういうことなのだろう。本当に、ただその素晴らしい風景描写を観ただけで泣きそうになってしまう。押井作品の描く日本の風景描写も良いのが多い。いわゆる日本のアニメーション映画の巨匠は、風景描写がみんな素晴らしい。心に響く演出をする。宮崎駿押井守大友克洋庵野秀明(今度、キューティーハ二ー実写版を撮るとか)…。と、風景描写の話ばかりで肝心の内容に全然触れられないけれど(風景描写といえば、例の「ほしのこえ」もすごくよかった)、まあいいか。実際の作品の内容は、満足でした。楽しめました。少し気になったのは、この映画において主人公の次に重要だと思われる人物の声優を竹中直人が担当していて、どうもこれが人物の見た目と合っていないように思いました。



マーク・フォスター「チョコレート」

アメリカの現代の田舎が舞台、悲劇、丁寧に描く人間ドラマ、やや地味。これだけで自分は食指が動きます。ハル・ベリー、ビリー・ボブ・ソーントン主演。少しストーリー展開が強引な気もしましたが(というか、あきらかに強引だと思います)、まあおもしろかったです。さびれた感じの田舎の風景も良かったです。ああいうのに弱い。配役もよかったです(ハル・ベリーの子供役である太った男の子、夫役の男もいい味を出していました)。(原題 MONSTER'S BALL)



コーエン兄弟「バーバー」

こちらもビリー・ボブ・ソーントン主演。無口な役が似合います。ぼくが監督の名前を意識して映画を観だした頃の監督のひとり(ふたり)が、コーエン兄弟です。兄弟の映画でおもしろくない作品はひとつもないと思っています。しかし最近は、昔にくらべてまるくなったというか、荒唐無稽さが減ったような気もします。それが悪いわけではないのでしょうが、普通の良い映画を撮るようになった気がします。いまひとつ弾けないというか。でもまあ、おもしろいことはおもしろかったです(おもしろかったばっかり!自分の感想!)。コーエン兄弟では「ミラーズ・クロッシング」「赤ちゃん泥棒」「ブラッド・シンプル」「バートン・フィンク」なんかが好きですかね。やはりコーエン兄弟の代表作を挙げろと言われたら、だれしもこのあたりを推すのではないでしょうか(あ、「ファーゴ」を忘れてた。あれも良かったですね)。コーエン兄弟は大体犯罪もの(殺人と誘拐?)の映画が多いですね。そのなかでもシリアスなのとコミカルなのに分かれるでしょうか。今回はシリアスなほうかな。あと、「チョコレート」と主演が同じでしたが、ストーリー上でも共通点がありましたね。(電気椅子による)死刑です。「チョコレート」は物語の前半に、「バーバー」は後半(というか最後)に(電気椅子による)死刑のシーンが出てきました。「バーバー」の舞台は、1940年代のアメリカの田舎ですね。やはり自分は、現代が舞台の方が好きみたいです。それから、この映画で印象的だったのは、やたらと人物たちが煙草を吸うことです。主人公も煙草が好きみたいで、どこでも煙草を吸っています。散髪屋で働く彼ですが、煙草を吸いながらお客さんの髪を切っていました。これは本当かどうか分かりませんが、アメリカでは嫌煙運動が盛んで、映画にもその影響を与えているとか言います。映画の中では煙草は吸わないでおこうという流れのようなのです。昔のハリウッドの有名な映画では、よく俳優が煙草を吸っていて、それがかっこいいとされていましたが(ハンフリー・ボガード)、そんなものはかっこよくない、煙草を吸っている場面は消せ、とかいう無茶なことまで言われているようです。実際に最近のハリウッド映画では、煙草を吸う場面というのはほとんどなくなっていると思います。そういうことを考えると、最近のハリウッド映画でここまで煙草を吸わせる作品というのは貴重です。たしかに、映画のスクリーンにおいて煙草を吸う仕草というのは絵になりますよね。(原題 The Man Who Wasn't There)



チャウ・シンチー「食神」

これはやぎさんが掲示板で良いと言っていたので借りてきました。「少林サッカー」で有名なシャウ・シンチー監督脚本主演ですね。内容は、その物語、その演出ともにとてつもなく荒唐無稽で、笑いました。最後の、主人公とライバルの料理対決において、相手の料理がうまいと言われたときの、ライバルのくやしがりかたのあまりにも馬鹿馬鹿しい表現。大きく拡大された肉の上で、小指ほどのライバルが寝転がってばたばたするのです。あと、料理が美味しかったときのリアクションも、急に画面が3分割されたりして唖然としました。ストーリーも滅茶苦茶すぎて、あきれかえるというよりむしろ感心しました。こういう滅茶苦茶さ、ご都合主義っていうのはインド映画にも通じるものかもしれません。たぶんその場所の気温に関係しているような気がしますが、どうでしょうか。ロシアでは作れなさそうです。大体寒いところではあまり大声を出しませんものね。香港映画(とくにアクションもの)はみな大声でしゃべりすぎです。



ロブ・コーエントリプルX

この映画は、非常につまらなかったです。いろいろ問題点があると思います。まず脚本。基本的な説明が出来ていないように思います。だれとだれがどのような関係で、どういう目的を持ってそれぞれ行動しているのか。それが分かりにくい。これはあきらかに脚本の失敗です。とくに痛快を売りにしているエンターテイメイト作品での脚本の失敗は致命的です。基本的な説明が出来ていないと、観るものは映画の中でいまなにが起こっているのか分からず混乱し、物語に乗ることができません。しかしなによりも、この映画の最大の欠点は主役のヴィン・ディーゼルの顔がまったく駄目なところです。はっきり言ってこの男は主役の顔ではないと思います。なにやらつねに眠そうな顔をしていて、映画から緊張感を奪っている。また、歩く姿が醜すぎる。こんな歩き方で、はたして映画に出ていいものなのでしょうか。そして極めつけはその声。体の大きさに比例して太くのろのろとした間抜けな声です。この人がしゃべると映画に怠慢な印象を与えてしまいます。というわけで、この人は主役としては最低です。もうこの人の出ている映画は一本たりとも観たくありません(もしかして脇役なら使いようがあるのかもしれませんが)。というわけで、他にも駄目なところはありますが、とにかくこの映画は自分の観た映画の中では最低ランクに入ると思います。こんなにつまらない映画を観たのはひさしぶりでした。



チェン・カイコーキリング・ミー・ソフトリー

はじめは恋愛映画と思いきや、いつの間にかサスペンスに転調します。なかなかおもしろかったです。主役のヘザー・グラハムとその相手役のジョセフ・ファインズの相性も良かったと思います。中国の監督というのは「紅いコーリャン」のチャン・イーモウもそうですが、赤という色が好きみたいですね。国旗も赤ですし、看板なんかも赤が多いですね。セックスと登山が主要なテーマで、それぞれ赤(ヘザー・グラハムの着ている服、下着、はじめにするセックスは紅い絨毯の上)と白(雪山のイメージが効果的に何度も挿入されます)がそのカラーに割り当てられています。物語は二転三転し、観客の想像を揺さぶります。



オムニバス「ANIMATRIX

ふと考えたんだけど、映画「マトリックス」の弱いところというか、欠点って、本当の現実である(という映画内設定の)世界がCGで作られているために、逆に現実に見えないというところではないのか。現実のはずなのにどうもぺらぺらで嘘っぽい。そちらの方が偽物の世界ではないのかと言いたくなる。まあ実際、偽物とされる世界は現実を撮影していて、本物とされる世界はコンピュータで作った嘘の世界なのですから、自分がそういう感想を抱いても仕方ない。でもこの奇妙な関係は、「マトリックス」を考える上で重要な事実なのではないかとも思います。
「アニマトリックス」はまあこんなものかな、という感じです。それぞれの表現はおもしろかったです。森本晃司の「ビヨンド」の風景描写は好きでした(やっぱりああいう生命感というか、生活感を感じる描写の方がいい)。