架空の芸術家1
その芸術家は、すべて自分の肉体を使って表現をする肉体芸術家。彼がはじめてそのヒントを得たのは、部屋の掃除をしているとき。部屋にかなりの量落ちている自分の髪の毛を使って作品が作れないかと思案した。彼は髪の毛を集めそれを用いて彫刻作品を作った。彼の芸術の出発点となるその作品は、どこかで拾ってきた丸太や木のきれを組合せて人の形にし、約二年分集めに集めた自らの抜けた髪の毛を表面を覆うように貼付けた気味の悪いもの(作品の写真をお見せできればいいのだが…)。次に彼は、自分の血を使って作品を作ることを思い付く。まず三日に一度牛乳瓶一本の血を抜き、これも集めに集め貯めておく。そして人型の巨大な水槽のようなものを作りその中に貯めておいた自分の血をすべて流し込んで作品は完成したが、この作品にかかったのは約三年だった。三日に一度の採血が作品作りのほとんどだった。彼にとっては、自分の血を使うというのが重要だったので、作品に他人の血を使うなど考えられなかった。彼の次の作品は、自分の排泄物を使ったもの。この作品はあまりに汚いので説明するのをためらってしまうのだが、要するに血の作品の延長線にあるものであり、各自想像してもらいたい。ちなみに精液を使ったものもあり、これらは三点セットで配置された。彼の最後の作品は、彼自身の手にはよらない。彼の最愛の妻によって作られた作品で、それは、彼が作品のために若くして自死し、その死体の骨を使った作品である。生前、作品をどういう形にするのかは妻に指示しておいたので、妻は指示通りにそれを作った…。彼が一生をかけて作った作品は、自分の肉体の一部、あるいは元一部を使って、本来の形とは違う別の何かを作ろうとするものだった。彼の最も特異な点は、その作品の材料だったと言える。